再生中の動画上にコメントを付け、視聴者同士で盛り上がれる「ニコニコ動画」。動画の上に文字を流すというインターフェースが斬新で注目を集めているが、ニコニコ動画にはそれ以外にも独自の仕組みを持つ機能が多数存在している。動画の分類をするために付けられるタグも、その1つだ。そしてこのタグに注目した研究論文が2008年、人工知能学会 知識ベースシステム研究会にて発表された。
「ニコニコ動画におけるタグ共起ネットワークの特徴抽出」と題したこの論文は、北海道大学大学院情報科学研究科に所属していた伊藤聖修氏によって提出された。動画に付けられたタグ同士の関連性から、現在注目すべきタグを発見できるのではないか――大学院でネットワーク理論を学んでいた伊藤氏は、ニコニコ動画を見てこのように考えた。
ニコニコ動画に注目したのは、1ユーザーとして使っていたというだけでなく、独特なタグのシステムが面白いと感じたからだ。ソーシャルブックマークなどで採用されているタグの場合、各ユーザーが自由に好きなだけタグをつけることが多い。これに対し、ニコニコ動画の場合、1つの動画に最大10個までしか付けることができない。また、タグは動画投稿者が指定した特定のタグ以外は、誰でも自由に付けたり消したりできる。
この仕組みにより、動画に合わないタグは、他のユーザーによって削除される。つまり、タグが「淘汰」されるのだ。また、タグは最大20文字まで入力できるため、表現の幅が広い。これにより「動画の内容を端的に表したタグだけが残る」(伊藤氏)ことになる。
伊藤氏はタグ同士の関係性から、そのタグの性質を割り出せるのではないかと考えた。たとえば、「初音ミク」というタグの場合、「音楽」「ミクオリジナル曲」といったようなタグと一緒に付けられる場合が多い。これは、初音ミクという音声合成ソフトに自分の作曲した楽曲を歌わせて投稿される動画が多いためだ。
これに対し、「才能の無駄遣い」といったタグは、さまざまなタグと一緒に付けられる。「才能の無駄遣い」というのはニコニコ動画の中では最上級の褒め言葉の1つで、ジャンルに関わらず動画投稿者の努力や才能を賞賛するために付けられるタグだからだ。
さらにこれを時間の経緯による変化で見ると、「初音ミク」のようにジャンルを示すような単語は、時間がたってもあまり関連するタグの種類、量ともに大きな変化はないが、「才能の無駄遣い」のようなタグは、関連するタグが質、量ともにさまざまに変化する。
こういったことから、多くの動画に使われているタグのうち、関連するタグの種類や量の変化が時間の経緯とともに大きく変わるようなタグは、何らかの注目すべき動画に付けられている可能性が高い、と伊藤氏は考えた。
伊藤氏が発表した論文ではここまでの考察にとどまっているが、これを応用すれば、機械的に「才能の無駄遣い」のような面白いタグを見つけられるようになり、より簡単に面白い動画を発見できるようになるという。
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