伊藤氏がニコニコ動画を研究対象にしようと考えたのは、2007年の9月ごろ。もともとネットワーク理論の分野では、ウェブ上で起きていることを材料にした研究が多く行われており、伊藤氏の先輩でもAmazon.co.jpやはてなブックマーク、ブログなどを題材にしていた人がいた。このため、ニコニコ動画を題材にしてもあまり驚かれはしなかったという。「教授にも、特に止めなさいとは言われませんでした。他の大学の人には『こういった研究はうちでは難しい』といったことも言われたので、自由にやらせてくれた教授には感謝しています」(伊藤氏)。研究会に論文を発表することに決めたのも、「まだ誰もやっていない新しいことだから、出したほうがいい」という先輩のアドバイスに従ったものだった。
論文を書き、また研究会で発表する上では、はてなグループ内の「ニコニコ部」とtwitterが非常に役に立ったという。ニコニコ部とは、はてなグループ内に設置されたコミュニティで、ニコニコ動画に関心のある人が集まってブログなどで議論を交わしている。伊藤氏はニコニコ部に入っているほかのブロガーの意見を研究の参考にした。また、twitterでは自分の研究を明かし、多くの人から様々な意見を聞いた。その中にはニコニコ動画の開発者もいた。「思ったことを書いたらリアクションが来た。そこで議論することで、新しい発見もあったし、自分の考えも深まっていった」(伊藤氏)
特に、ニコニコ動画のタグの関係性をグラフ化して見せたところ、多くの反響があったという。「絵にするとネットワークのことを知らない人にも興味を持ってもらえることが分かった」(伊藤氏)。このグラフは、複雑なネットワークを可視化したグラフを集めた海外のサイト「visualcomplexity」にも採用されている。
ニコニコ動画やはてな、twitterなどは、もともと伊藤氏が「好きだから」という理由で使い始めたものだ。それらがうまく重なり合い、1つの論文になった。「好きなものを突き詰めた結果、好きなものを好きと話せる環境があったのが幸運でした」(伊藤氏)
4月からは、社会人として働く。学生時代の時のように時間をかけてニコニコ動画のことを分析したり、はてなグループやtwitterで他の人と議論したりすることは難しくなる。今後は仕事をしながら、趣味の範囲でこれらのサービスを見ていくという。
「(この1年は)今までで一番人生について考えた1年でした。でも確かなことは、僕はウェブが好きだということ。形は変わってもウェブに接する生活は続けていくつもりです」(伊藤氏)
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