欧州連合(EU)と米Microsoftの間で足掛け9年続いた独占禁止法違反を巡る対立が幕を閉じた。Microsoftは2004年に下りた独占禁止法違反の是正命令を全面的に受け入れ、上訴を正式に取り下げた。欧州競争委員担当であるNeelie Kroes氏は、「暗いチャプターを終えることができると望む」と述べている。
10月22日、EUの執行機関である欧州委員会(EC)は、MicrosoftがEU側の要求に従い、Windowsとの相互運用性に必要な情報を開示し、サードパーティによる利用を認めることを発表した。Microsoftはまた、当初要求していたライセンス料金を大幅に下げて1回限り1万ユーロとするほか、特許使用料を売上げの7%から0.4%に引き下げる。
続く24日、MicrosoftはEUの是正命令を不服とする残る2件の上訴請求を取り下げたことを発表、誰も想像できなかったくらい長期化したEUとの訴訟問題に、ピリオドを打った。
2004年3月、米Sun Microsystemsらの申し立てを受けてMicrosoftの商慣習を調べていたECは5年にわたる調査の後、独禁法違反が見られるとの判定を出した。そして、Microsoftに対し、4億9720万ユーロという記録的罰金支払いのほか、「Windows Media Player」を含まないWindows OSの提供、サーバ互換性のためのインターフェイス情報の公開という是正措置を命じた。
長期化した原因は、最後の互換性情報だ。Microsoftは2005年の「Workgroup Server Protocol Program」など、ECの要求に従う姿勢を見せたが、ことごとく付き返された。両者の関係は、“ECの態度は中立性を欠く”とする回答書をMicrosoftが送るなど、対立の姿勢を深めた時期もあった。そして今年9月、欧州第1審裁判所(CFI)は、2004年のECの判定を不服とするMicrosoftの訴えを退けた。これが決定打となった。
Microsoftは是正命令を全面的に受け入れる道を選んだ。CFIの判決後、MicrosoftのCEO、Steve Ballmer氏はKroes氏の住むオランダ・ロッテルダムに出向き、レストランで会合を持ったという。Ballmer氏とKroes氏のやりとりはその後数週間、毎日のように続き、今回の発表となったようだ。
当初担当だったMario Monti氏から引き継いだKroes氏にとって、Microsoft問題は最重要課題の1つだったようだ。Kroes氏は今回の勝利を「ECではない。消費者の勝利」と述べている。
だが、WMPをバンドルしない「Windows XP N」の売れ行きと効果は疑問視されている。また、創業者のBill Gates氏がEUの制裁金に対し、“欧州での製品価格を高くせざるを得ない”という旨をコメントしたといわれているが、「Windows Vista」の欧州での価格は米国より高いといわれている。同じ英語である英国では、Vistaの販売価格が不当に高いとして、今年2月に政府に陳情が上がっている。長いプロセスの間に時代は変わった。デスクトップからWebへ、プラットフォームは移行している。
Kroes氏が強固な姿勢を崩さなかったのは、この訴訟で勝利すれば自分たちの権威を示すことになるためだ。欧州でビジネスをするなら欧州の法に従え、というメッセージだ。だから、今回のMicrosoftの敗訴は、米Intel、米Googleら、独占的な立場を持つ米国企業にとって、対岸の火事ではないだろう。たとえばECは同じ22日、Googleによる米DoubleClick買収に関する調査を延長することを発表している。
前回、欧州でベンチャーがなかなか生まれない・育たないという話を書いたが、このような強い“お上”の存在も関係ありそうだ。やはり、米国と欧州は近くて遠いのだ。
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