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運と機会を味方に「1人でも企業を変えられる」--出井氏が贈る起業家へのメッセージ - (page 3)

尾本香里(編集部)2007年08月01日 08時00分
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――Vieux氏:Appleは1997年頃は瀕死の状態でした。しかし、今はとても好調です。1つの会社が瀕死の状態から頂点までいくことなど、あり得るのでしょうか。しかもそれを1人の人間が舵を切って成し遂げられるのでしょうか。

出井氏:会社の経営はマラソンのようなものです。ネット社会で経営者はまだ、42kmのうちの5km程度しか走っていません。また企業の浮き沈みにはサイクルがあります。Appleは今、エンタテインメント企業に生まれ変わり、成功していますが、ソニーもこの土俵で戦っています。Appleは大変なイノベーションを巻き起こしましたが、この状況がいつまでも続くとは思いません。

 Steve Jobs氏に1997年に同じ質問をしたことがあります。このときの彼の答えは「QuickTime」が鍵を握っているというものでした。当時のAppleは、OS市場の数パーセントしかシェアを獲得できず、逆に市場を独占するMicrosoftを相手に画策していたのです。

 その後、ネット社会はAppleにとってとても好意的に動いてきました。ネットがOSの違いを飲み込んでくれたのです。そこでAppleはOSを超えたビジネスを始めました。音楽ダウンロードビジネスがそうです。

 ネットの新しい環境にAppleは助けられたのです。そして、フラッシュメモリチップの発達にも助けられました。

 一方でウォークマンの歴史を振り返ってみても、最初はテープ型でしたが、そのうちにフラッシュメモリを採用しました。そして将来は、電話ベースのものが売れるようになると思います。先ほど申し上げたように企業の浮き沈みにはサイクルがありますから、今後はAppleの音楽プレーヤーをしのぐ売れ行きを示すようになるかもしれません。

 ゲーム界におけるソニーと任天堂の戦いについても同じことが言えると思います。最初のフェーズではソニーが勝利を収め、第2フェーズでは立場が逆転しました。

――Vieux氏:出井さんは長いキャリアをお持ちで、ソニー創業者の盛田昭夫氏をそばで見ることもできました。そんなあなたは1人の人間が企業を変えられると思いますか。

出井氏:できると思います。ただしタイミングが重要です。Carlos Ghosn(カルロス・ゴーン)は日産にきて、見事な手腕を発揮しましたが、彼はとても良いタイミングに日本に来たと思っています。またGhosn氏自身の、仕事との相性も良かったと思います。

 タイミングと人物が両方そろって初めて企業を変えることが出来ると思います。Ghosn氏が来るのが3年早かったら、状況は違ったと思います。

 サムスンにしても同じことが言えます。1997年のIMF危機の直後から変わりました。その前からソニーに追いつき、追い越そうと努力してきましたが、かないませんでした。

――Vieux氏:起業を考える人に1つだけアドバイスをするとしたら、何と言いますか。

出井氏:昔から言われていることですが、過去に成功したケースを追い求め過ぎないことです。これは今の時代にも通じることだと思います。また、Clayton Christensen氏の「イノベーションのジレンマ」という本はセオリーブックとしてとてもいいと思います。

――Vieux氏:他に何かアドバイスはありませんか。絶対にやっておくべきこと、逆にしてはならないことはありませんか。わたしは前日の講演で起業家たちに「夢をあきらめるな」というメッセージを伝えました。

出井氏:それは成功した人だから言えることだと思いますよ。夢を追い続けても失敗する人はたくさんいます。

 結局は運がモノをいうのです。技術の面でも、人材の面でも運に恵まれないといけません。

――Vieux氏:そうですね。わたしも運が50%くらいの鍵を握ると思います。

出井氏:もちろん運がすべてとは思いませんが、わたしは50%以上だと思います。

 かといって、今日の現実的なビジネスだけを考えて、次の夢を思い描かないのは考え物です。26年前にBill Gates氏に会いました。彼はこのときから、頭の中に3世代先までのロードマップを思い描いていました。

――Vieux氏:では、出井さんからのアドバイスをまとめますと、強運の持ち主になるように努力しなさい、そして今日のビジネスに固執し過ぎず、明日のことも考えなさいということですね。

出井氏:(笑いながら)その通りです。

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