Appleはまた、実際には開かれていない会議の議事録が何者かによってねつ造された件を認めている。この議事録で、Jobs氏へのストックオプションの発行が承認されたことになっていたのだ。Appleは、この議事録のねつ造を現経営陣が把握していたという証拠は見つからなかったとしているが、取締役会の一員だった最高財務責任者(CFO)のFred Anderson氏の辞任を発表した際にJobs氏が語ったように、この事件は明らかにJobs氏の監督下で起こっている。Appleの広報担当者は、内部調査に関して公式声明に付け加えることはない、とコメントを拒否した。
McAfeeの場合、プレスリリースの発表では会長兼CEOのGeorge Samenuk氏が同社を去ったことを「退任(retired)」という言葉で表している。一方、社長のKevin Weiss氏は「解任された(treminated)」ことになっている。Samenuk氏は、McAfeeのバックデート行為に自身が関与したかどうかには触れず、「特別委員会によって指摘されたストックオプションに関する問題が、私の指揮下で起こったことを残念に思う」とコメントしている。
このように企業を追われた経営幹部がいる一方で、Jobs氏が疑惑の追及を免れているのはなぜか。もちろん、それぞれの幹部が公式声明以上の詳しい情報を持っているのかどうかは分からない。だが、専門家の意見はおおかたで一致している。つまり、捜査の結果刑事責任が問われることにならない限り、Appleほどの勢いのある企業にとっては、取締役会がJobs氏をかばい続けることで被る痛手よりも、同社の象徴的存在であるJobs氏を失うことによって受けるダメージの方がはるかに大きいだろうというのだ。
「株価が下がっているときには、株価が上がっているときよりも、不穏当な行為がクローズアップされる傾向がある」と、スタンフォード大学で会計学を教え、同校のCorporate Governance Research Programのディレクターを務めるDavid Larcker氏は指摘する。
確かにAppleの勢いはすごい。同社の株価は、「iPod」と「Macintosh」の好調な出荷状況を受けてウォールストリートの財務予測を上回る利益を数四半期にわたって計上した後、直近の52週でも14%上昇している。そしてつい最近も、2007年6月の出荷を前にアナリストたちにその将来性について語らせずにはおかない新製品、「iPhone」を発表している。
そして、こういった状況では取締役会が従うべき一定の基準というものは存在しない。「ご想像の通り、取締役会というものは、この種の問題にはさまざまな基準を適用するものだ」とLarcker氏は言う。「例えば、既に企業が多数の問題を抱えていて、さらに新しい問題が起きたのだとすれば、彼らはほとんど躊躇することなくCEOを切り捨てるのではないだろうか」(同氏)
Appleに、才能あるデザイナー、技術の天才、抜け目のないマーケッターがそろっていることは間違いない。しかし、テクノロジ業界の他のどのような企業と比べても、Jobs氏ほど企業の成功に影響力を持つCEOはいないのではないだろうか。同氏の輝かしい経歴、厳しい経営手腕、そして、プロジェクト完遂のためにJobs氏が発揮する魅力、カリスマ性、マーケティング力を総称する「現実歪曲空間(reality distortion field)」という有名な言葉が、それを示している。
要するに、Appleの最大の資産は、おそらくJobs氏なのだ。
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