2月から、松下電器産業など10社以上が対応製品を出荷してきたテレビ向けオンラインサービス「Tナビ」、ソニーのブラビア向け「TVホーム」などが統合され、代わって先に松下やソニーなど国内有力テレビメーカーを含む6社が設立したテレビポータルサービス(TVPS)が提供する「アクトビラ」が利用できるようになった。
アクトビラは「テレビをもっと楽しむための、テレビの新しいネットサービス」を基本コンセプトの下、開発されたという。ブロードバンド上で提供されるインターネット互換のウェブブラウジングサービスであるものの、閉域ネットワークで提供されるため限定されたサイトのみしか利用できない「ウォールドガーデン」モデルを採用している。また、当然のことながら、テレビ画面上でリモコンを用いてウェブブラウジングをすることになる。これらの特徴は、リビングで家族みんなが「安心・安全」「簡単・便利」に利用できることを重視した結果というが、これがはたしてユーザーが求めるものなのかは分からない。
むしろ、ウォールドガーデンという点では、かつてインターネットとの相互接続を拒んだAmerica Online(後のAOL、現在のTimeWarnerのオンラインサービス部門)や、現在急速に一般サイトにユーザーを奪われつつある日本のケータイキャリアのように、あるいは「テレビでウェブブラウジング」という点で死屍累々のインターネットテレビやマイクロソフトのWebTV、ちょっと異なるものの家庭用という点では共通するNTT東日本、西日本のLモードのように成功することなく姿を消した(あるいは、消しつつある)ものが多い中、あえてそれらの組み合わせを選択したことが興味深い。
たしかに、すでにTナビやTVホームなどのサービスへの接続機能を備えたテレビは300万台以上出荷されていると推定される。それら大型・薄型テレビは比較的高価な製品であるため、大半が光ファイバやDSLなどのブロードバンド接続環境がある家庭に設置されていると考えても不自然ではない。また、過去のTナビの利用動向統計などの発表を見る限り、Tナビ付きテレビの購入者の多くが1度は利用していると回答しているというから、単純には「使えない」「使わない」と言い切ることはできないだろう。
だが、本当の意味での需要はあるのだろうか? そもそも、テレビの機能の1つとしてついてきたので試しに使ってみた程度の話かもしれず、その機能があるがゆえにアクトビラ(かつてはTナビやTVホーム)対応機種に購入候補を絞り込むほどに重要なものとして認知されているのかと考えると、答えはおのずと出る。
もちろん、ほとんどの機種にこの機能が搭載され、しかも無料で利用できるといった条件が整えば、急速な普及を見せた携帯電話のiモード同様の利用が規模として見込めるのかもしれない。ただ、それがウォールドガーデンモデルという、多様なサービスの発展があまり期待できないモデルを採用している点で、疑問はぬぐいきれないままになってしまう。
すなわち、提供者―利用者という1対多関係にとどまり、多対多関係に基づくネットワークの外部性が生じないため、強力なサービス提供者というポジションを加速度的に作ることが困難なのだ。加えて、すでに個人ごとに所有したハンディな端末=ケータイでユーザーが情報検索をするという行動を学習し、それが定着しつつある現在、リビングでしか利用できないサービスであれば、機能的代替性は限りなく低い可能性が高い。
実際、僕のリビングに置いてあるブラビアもTVホームが利用できたので、時折、当初は物珍しさ、そしてその後は手持ちぶさたのときに利用した記憶はあるが、積極的な利用を考えたことはない。というのも、自宅であれば、ユーザーインターフェースという点で慣れたPCを利用したほうが、より効率的に情報検索ができるからだ (ただ、残念ながら、2月3日時点でブラビアからのアクトビラ接続が中止されている。表示できないページがあったからという)。
これらのことを考えると、当面期待できるのは、テレビという全世帯に存在する機器になんらかの付加価値を生じさせ、規模の経済で事業を成立させることにしか過ぎない。その程度であっても、ユーザーインターフェースという点で、必ずしもPCと比べて優位にないことをいかに克服し、提供するコンテンツなどで利用者に「お得感」などを覚えてもらえる企画を作りうるか、といった課題は多く存在するのだが。
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