“iPod旋風”の極意は心に深く突き刺さる前刀流マーケティングにあり:後編 - (page 2)

別井 貴志 (編集部) 、構成:島田昇(編集部)2006年12月29日 08時00分

小池:日本で始めたことをアメリカに逆輸出するようなこともあったの?

前刀:うん、マーケティングのアプローチは、日本オリジナルのものをほかの国でも導入したっていうのはありましたね。それと、路面店のAppleストアは米国が先だったけれど、海外での1号店は日本の銀座だった。その姿勢を見て、「Appleはひょっとして日本でまだやる気があるのかな」と実感できたこともある。

 先ほど話したように、日本は非常に特殊というか、特例ポジションを作ってのテコ入れだった。なので、マーケティングのVPというポジションだとセールスVPとは違って、いち早く新製品情報を知ることができるし、コーポレートのプロダクトプランニングとか、マーケティングコミュニケーションズとか全部同レベルの情報を持ちながらオペレーションすることもできた。

小池:それで見事3年でAppleブランドを建て直したよね。

前刀氏

前刀:まあ、たまたまだよ。僕は本当にラッキーな人間の1人だと思っているんだ。いいタイミングでいいものに巡り合えたということが、何よりも大きいのかなという気はする。

 でも2004年にAppleに入った時、ある部下の1人がマンションを買おうと思っていて不動産屋さんに「どちらにお勤めですか」と言われて「Appleです」と言ったら、すごく心配されていた。それが2005年になり、「Appleです」と言ったら「それはいいところにお勤めですね」(笑)って。それぐらい世の中のAppleに対するイメージががらっと変わったのは嬉しいことだよね。

 でも、どこへ行っても「Appleすごいですね、すごいですね」と言われ続けるようになると、つまらなくなっちゃうんだよね。自分で作ったものではないし。それはどこの会社に行ってもそうだった。ソニーでもディズニーでもAOLでもそう。Appleでも「ここはジョブズの会社だ」と思うってしまうわけ。

小池氏

小池:なるほど。でも、やっぱり辞め時ってすごくタイミングとか難しいじゃない。そういった意味では、頂点で辞めるっていいと思うよ。ビューティフル(笑)。

前刀:そういう意味じゃ、ほんとサラリーマン志向だけでやっていくんだったら、Appleでの仕事はいいよね。あそこまで勢いがついてくるとあとはずっとそれなりの給料ももらえるし、社会的地位もあるし。それと比べると今は無職だからね(笑)。

小池:今、無職だっけ?

前刀:無職だよ。プータロー(笑)。

小池:でも、プータローの割には昼も夜も忙しそうじゃない。

前刀:それは結局、起業準備のためのミーティングが入っていたりとか、あとはやっぱりすごく人と会う。会いたいっていう人が多いしね。

小池:それで、まだ次にやりたいことって言えないの?

前刀:それはまだ言えない。ただ、ネットの関係でちょっと話をするならば、今、結局あのmixiですらレベニューモデルが広告モデルしかないというのは、ここ何年かのインターネットの発展の中でやっぱりおかしいと思うんだよね。要するに、成長性の限界をそのことが物語っている。その証拠に、レベニュースキームに対しての革新が1つも起きていない。バリューションとか株価は正直、僕にとってはどうでもいいことなんだよね。

 例えば、mixiみたいなところがものすごい資金調達ができましたと。でも、その先が見込めないというか、読めないというか。これだけいろいろネット上でのアプローチとか手法が進んできている中で、レベニューモデル、レベニューストリームとしてのイノベーションが起きていないのはちょっとね。

小池:インターネットメディアの価値が叫ばれているけど、テレビCMとか街頭広告の素晴らしいのは、無理やり見せられることなんだよね。圧倒的にそれがものすごい価値。テレビCMは、テレビでドラマを見ていたのがどーんと変わっちゃって、いきなり見せられるわけだよね。それはすごいプッシュだよ。ああいうハードプッシュがやっぱり結果的にはすごく効いてくる。

 前にすごく笑ったのがAOL。会員を増やすために何をやったかといったら、「これからはネット広告です、テレビCMじゃないんです」とテレビでCMしてるの。

前刀:そうそう。だから、それが顕著に出てきていないことに、個人的にすごく驚いているわけ。ネットが出てきてもっと世の中が便利になっていき、いろんな意味で実際ベネフィットを生むようになってきているのに。ただ、やはりそれを支えていくための仕組みがしっかりできていない。例えば、ディズニーランドはみんな結構な額のお金を払うんだけれども、誰も浪費したと思っていないわけ。それを補って余りあるだけの満足度、幸福感が得られるから。

 やはり利用者がそういうベネフィットを享受して、サービスを享受した時にそれに対しての対価が払われるようなモデルがもっときちっと出てくるべきかなと。だから、「なんだよ、結局広告モデルか」みたいなのは、僕は聞くとどっちかっていうと興ざめしちゃうタイプなんだよ。

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