ベンチャーキャピタルは「もの言う株主」より「働く株主」であれ

永井美智子(編集部)、田中誠2006年11月02日 08時00分

 企業が成長する過程では、決して経営者1人の努力だけでは無理だろう。資金はもとより、経営に関するアドバイスなどさまざまな支援が必要になる。こうした役割を担うひとつがベンチャーキャピタル(VC)だが、経営者とVCはどのようにして出会い、具体的にどういう関係を構築していくのか、そして人物像は。

 IBM Venture Capital Group日本担当の勝屋久氏が紹介する形式で、VCと経営者の両者に対談してリアルにお伝えします。アイシーピー取締役の石部将生氏と、カカクコム取締役相談役の穐田誉輝氏の登場です。

勝屋:以前、このシリーズに登場して頂いたインキュベート・キャピタル・パートナーの赤浦さんから、ジャフコ時代の同僚ということでご紹介頂いたんですが、まずはお2人の出会いから伺えますか。

石部:僕の方が先輩なんですが、僕が1989年にジャフコに入社しまして、2年下が赤浦さん、4年下が穐田さんです。メンバーズの剣持君(代表取締役社長の剣持忠氏)も含めて、みんな同じ部署で机を並べていました。

勝屋:石部さんから見て、穐田さんの最初の印象はどうでしたか?

石部:穐田君は同期の中で最初に投資案件を成立させたんですよ。当時、ジャフコでは投資案件の数が成績として評価されたんです。でも確か、大変なことになっちゃったんだよね。

穐田:大変でしたね。経営者が詐欺師だったことが後で判明しましたからね(苦笑)。契約上、使えない資金を巧妙に使い込まれて、結局、投資して半年くらいで倒産しちゃったんです。ジャフコには大変申し訳ありませんが、投資後の最短倒産記録を持っているのはたぶん僕ですね。

穐田誉輝氏と石部将生氏

石部:そうそう。だから最初に投資を決めて、同期の中では一番優秀だと思ったら、すぐにトラブってしまったりして、短い間にいろんなことを経験する人だなあという印象ですよね(笑)

穐田:2億円くらいの被害がありました。本気で悪いことを仕掛けてくる人への対抗手段というのは、今考えてもなかなか難しいですね。

勝屋:では、そんな若き日の穐田さんから見て、石部さんの印象はどうでしたか。

穐田:僕からすると本当にジャフコという会社の象徴的な存在ですよ。当時、第一投資本部という部署にいたのですが、そこはジャフコの中でも先進的な部署で、日本のVCは俺たちが創っていくんだという高い意識がありました。僕は新卒でそこに入って、強烈な影響を受けたわけです。社会人としての教育は全てそこで受けたと言ってもいいくらいです。

 その中でも石部さんは部署全体を代表して環境を作っている人でした。大げさな例えかもしれませんが、明治維新の時に薩摩藩のごく一部の地域から多くの志士が出たのと同じように、狭い環境で同じような志を持った人がお互いに触発しあっていたんです。そこに僕も身を置けたのはすごくラッキーでしたね。

勝屋:その後、お2人はジャフコを退社して、アイシーピーを設立されるわけですよね。

穐田:僕はジャフコの後、ジャック(現カーチス)というベンチャー企業に入社して、株式上場を経験したのですが、VCから事業会社に行って事業経験を積み、上場まで経験した人って意外と少ないんですよ。それが理由で「VCファンドを運用しないか」という話をいくつか頂いていました。でも僕は海外へ留学したかったし、1人でビジネスをするつもりもなかったので、お断りしてました。

 その時、石部さんが転職されるという話を聞いたんです。僕はてっきり石部さんはジャフコの社長になるものだと思っていたので、非常に驚きましたね。でも、石部さんと一緒なら高い運用益を出せると確信していたので会社設立をもちかけました。

石部:ファンドがまずあって、それを運用する会社を設立したという感じですね。

勝屋:アイシーピーは出資者の利回り(IRR)が年率34.1%というすごい実績を出されていると聞いています。

石部:IRRについては、正直もうちょっと上を狙っていたんですよ。ファンドを設立した当時は最低でもIRRが25%くらいはないとだめだという話はしていたので、当初の目標はクリアしたんです。ただ、この利回りが出たのもカカクコムによる部分が大きいので、もうひとつくらいそういう会社がファンドの中に含まれていれば50%くらい行ったのかなと思うとちょっと不満が残ってもいるんです。

 2年半前くらいからはファンドの募集を中止していて、それからは利回りに縛られない運用ができるようになりました。その中でデザインエクスチェンジなどの上場会社にも投資をしていったんです。IT関連の企業で、我々が人的リソースや取引先を提供できる会社なら、上場、未上場は問わず、投資をしていこうというポリシーです。ただ、今はデザインエクスチェンジの代表もやっていて、ほとんどそれにかかりっきりになっている状況なので、やっぱり上場企業は投資対象から外した方がいいんじゃないかなと、正直思っていたりします(笑)

アイシーピー取締役
石部将生

東京理科大学卒業後、1989年4月日本合同ファイナンス(現ジャフコ)入社。1998年より、第一本部第二チームゼネラルマネージャーとして投資チームをマネジメント。その後、光通信を経て1999年にアイシーピー設立、代表取締役副社長に就任。次いで、代表取締役社長に就任。現在はアイシーピー取締役として、投資先数社の取締役と監査役を兼務し、ベンチャーを支援している。

趣味:旅行、水泳

投資先:カカクコム(東証1部:2371、元取締役)、デザインエクスチェンジ(東証マザーズ:4794、現代表取締役)、スリープログループ(東証マザーズ:2375)、サイボウズ(東証1部:4776)、ネクスト(東証マザーズ:2120)、バイクブロス(現取締役)、ユーブック(現取締役)、ビットレイティングス(現監査役)、パールビジョン(現取締役)、ハイファイブ・エンターテインメント(現取締役)、ALITO(現取締役)、他20社

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