「大きいことがいいこと」とは限らない--ソーシャルネットワークのジレンマ

坂和敏(編集部)2006年09月26日 23時45分

 米国第2位のソーシャルネットワークサービス(SNS)であるFacebookが今日(米国時間26日)、新たに「地域(region)」単位による参加者の登録受け付けを始めた。これまで「学校しばり」「会社しばり」の「招待者限定」で人気を集めてきたFacebookにとって、これは実質的に一般への門戸開放を意味する動きとなる。

 第1位のMySpaceにユーザー数、ページビューとも大きく水を開けられ、またGoogleとの広告提供に関する提携を結ばれたFacebookとしては、ここで何とかユーザーベースを拡大し、独立独歩で株式公開まで進むメドをつけるか、Yahoo等大手企業への売却交渉に関して有利な条件を引き出せるようにしたいところと思われる。今回の一般への門戸開放もそうした流れの一環だが、ただし移ろいやすいユーザー(の生み出すコンテンツに)依存するSNSだけに、単純に対象を拡大すればいいというわけでもない。9月20日にKnowledge@Whartonサイトで公開された「Losing Their Cool: The Downside of Expanding Hot Social Networking Sites」(「クールの喪失:拡大を目指すソーシャルネットワークサイトが抱えるリスク」といった意か)というエッセイには、そんな指摘がある。

 「これらのサイトが元来の魅力を希釈せず、また顧客離れを起こさないようにしながら、新しい市場へ業務を拡大して行くにはどうすればいいか ("How do these companies expand into new markets without losing what originally made the site popular and alienating their existing customers?")」。そういう筆者は、この疑問を補強するように、「若者向けのトレンディなオンラインスペースとして始まったサイトが、(業務拡大のために)年配者を会員にしようとし始めたなら、初期から参加した顧客がそのサービスを使い続ける可能性は低い("For instance, if a site starts out as a trendy online hangout for young people and then begins courting senior citizens, it is unlikely its initial customer base will stick around.")」という(Whartonの同僚である)専門家の考えを記している(この「専門家」のなかには「Supernovaカンファレンス」を立ち上げたKevin Warbachも混じっている)。

 このような「成長とブランドの希釈化とのジレンマ("key tension between growth and dilution of the brand")」に関して、筆者は「トヨタやP&Gに倣って、複数のブランドを立ち上げるのも一つの手ではないか」と提言している。つまり、一般向けのToyota、高級路線のLexus、そして若者をターゲットにしたScionというふうに、別のブランドを使い分ければ、各々のブランドを希釈することなく、既存顧客を他の(通常はよりニッチ狙いの)競合サービスに奪われずに済む、というわけだ。

 確かに、「MySpaceと(学校が単位の)Facebookと(ビジネスパーソン向けのSNSである)LinkedInが1つの企業の傘下」にあれば、たとえユーザーがあるサービスから別のサービスへと移っても、企業はそのユーザーが競合他社へ流れることを防げるだろう。また家庭や職場、その他の人間関係のごとに、いくつか異なる「顔」を持ちたいと考える人ならそうした「使い分け」を積極的にするかも知れない。

 ただし、「CanCamを卒業した人には姉Can」というような従来型の商品展開の考えが、SNS分野にそのまま当てはまるかどうかについては、正直なところピンとこない部分もある。また、たとえば500万人超の会員を有する「ミクシィ」も実際には無数のクラスターに分散しているといった実感からいっても、どこか違和感が残る。Facebookの決断の結果がはたして吉と出るか凶と出るかを見守りながら、改めて別の機会にこのジレンマについて考えてみたいと思う。

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