その後もMicrosoftの成長は続くが、現在われわれが知っているような巨大企業に成長することはなかった。Lotus(実世界ではIBMに買収された)やNovell(実世界ではかつての輝きを失っている)といった他のソフトウェア企業と変わらない規模にとどまっていた。
Appleも堅調を維持するが、マーケットを主導することは難しくなる。Microsoft製のOSは、パートナー企業とGates氏の屈強なビジネスセンスのおかげで、1990年代末までにはPC用OS市場を支配するようになる。2006年までには、全PCの40〜50%に搭載され、残りをAppleとIBMのOSで分け合う状態となる。このころ始まったオープンソースソフトウェア運動によって登場した新しいOSも注目を集め始める。
IBMはますます巨大企業と化し、ごう慢ともいえる経営を続けていた。それでも、80〜90年代の大半の期間は好調を維持していた。しかし、90年代の終わりになると、小さく小回りが効く企業によって作り出される製品に対応できなくなり、自らの重みで崩壊し始める。IBMの経営幹部たちは、かつての繁栄を取り戻すにはメインフレームとPC、コンサルティングの3事業部門に分割する以外に方策のない現実に直面して苦しむが、結局のところ分割には踏み切れない。2006年までには、ちょうど1996年ごろのDECがそうだったように、不健全な状態に陥ってしまう。
このシナリオは最初のシナリオとあまり変わらないが、1つ大きく異なる点は、MicrosoftがIBMとAppleに次ぐ、PCエコシステムの3つめの中心的存在にならずに終わることである。その代わりに、MicrosoftはIBMの数あるパーツ提供元の1つとなり、別のパートナー企業に買収されてしまう。
しかし、たとえゆっくりではあっても、革新の波は避けられない(この点はDell氏もわたしと同意見だ)。結局、第3のOSが登場し、AppleとIBM以外のコンピュータ会社で採用されはじめる。一体どこが開発することになったのだろうか。わからない。Sun Microsystemsかもしれないし、実世界には登場しなかった別の企業かもしれない。Appleが最高のコンピュータを創り続け、IBMが最高レベルの販売人員を維持するなかで、業界の3本目の柱となる企業は、やはり、エキサイティングな何かが起こる舞台となる(こうした起業家の賭けをエキサイティングと形容するならであるが)。
どちらのシナリオでも、Webは発明されるが、現実よりも普及に時間を要する。PCの価格が一般ユーザーにも手の届く価格に下がるまでに時間がかかるからだ。もっと重要なのは、ベンチャー投資家たちが技術業界よりもバイオテクノロジに投資の比重を置くようになるため、PC業界の熱狂的とも言える革新文化の発展が現実よりもずっと遅れるという点だ。
実際、1981年にIBMとMicrosoftが合意に達しなかったら、今は当たり前になっているオンラインニュースやオンラインバンキング、バーチャルチャットなどは、現在より5年前、いや10年前の水準にとどまっているだろう。技術業界は最終的に発展を遂げただろうか。もちろんだ。しかし、1981年の合意がなければ、発展はかなり遅れていただろう。
この時期に、細部に気をとられてWindows対MacのOS議論を戦わせるのもいいだろう。どちらが優れているか、どちらにも十分な根拠がある。しかし本当に重要なのは、1981年に、今日のPC産業が産声を上げたという事実なのだ。
著者紹介
Jim Kerstetter
CNET News.comのアクセス、デジタルライフ、メディア部門の編集長。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
住環境に求められる「安心、安全、快適」
を可視化するための“ものさし”とは?
「程よく明るい」照明がオフィスにもたらす
業務生産性の向上への意外な効果
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス