とはいえ、日産はハイブリッド車に対する取り組み方に一線を引いている。というのも、既存の技術のレベルアップ、効率化といったクリーンテクノロジーに比重を置いている日産はガソリンエンジンの内部摩擦を抑えたり、クリーンな燃焼技術や触媒技術を開発したりすることで、地球環境にやさしい車を提供する戦略を取っているからだ。このあたりはハイブリッド技術に軸足を置くトヨタ自動車とは対照的だ。
日産は2006年5月度の国内販売でガソリン車の80%以上が「平成17年基準排出ガス75%低減レベル(☆☆☆☆)=SU-LEV」を達成したと発表したリリースのなかで、「販売台数の40%を燃料電池車や電気自動車にする場合と、ほぼ同等の窒素酸化物(NOx)とCO2削減の効果をもたらす」といった試算を明らかにしており、既存の技術をさらに高めることで、自動車のクリーン化を押し進める考えを明らかにしている。
その意味では、ガソリン車に限らずディーゼル車の技術力アップも求められる。日本ではディーゼル車といえば、排ガスが汚いというマイナスイメージが強いが、欧州ではCO2の排出量が少ない点が受け入れられて、乗用車では新車販売の5割を超えるまで普及しており、燃費向上という観点でディーゼル車を見直す動きが高まりつつあるのが現状だ。
日産は2009年にも米国市場向けに大型車でディーゼル車を投入することを検討。ホンダも5月17日の年央記者会見で福井氏が、現在のディーゼルエンジンをベースに4気筒の次世代ディーゼルエンジンを開発していることを明らかにし、3年以内に市場に投入する方針を明言した。
特に「2009年問題」として、ディーゼル車にガソリン車並みのNOx排出を求める米国の排ガス規制「Tier2 BIN5」や、ディーゼル乗用車の規制を強化する日本の「新長期規制」にいかに対処するかが課題となっているが、次世代ディーゼルエンジンはこれらの規制をクリアーする性能を持っているという。このように、ホンダも車のクリーン化にあたってはトヨタ自動車とは一線を画し、小型車はハイブリッド車、中・大型車はディーゼル車という戦略を明確にしている。
このほかディーゼル車を巡っては、スズキがイタリアのFIATのディーゼルエンジン技術を導入し、2010年に年間10万台のディーゼル車を世界規模で展開する計画を進めているほか、三菱自動車も三菱重工業と2009年中に共同で2リッター・ディーゼルエンジンを開発して欧州向けの車種に搭載する考えだ。
トヨタ自動車も次世代クリーン・ディーゼルエンジンの開発は続けているが、クリーンテクノロジーの中でハイブリッド車とどう差別化して住み分けていくかが今後の課題となっている。
クリーンテクノロジーのハイブリッド車、ディーゼル車はともに、燃費を向上させることで化石燃料の消費を抑え、地球温暖化の原因となるCO2の排出をいかに少なくするかという点に主眼が置かれている。いずれもCO2の排出が少ないだけでゼロではないので、化石燃料をまったく使わないクリーンテクノロジーが求められている。
車の分野で化石燃料に代わる燃料として期待が集まっているのが水素。水素と空気中の酸素を化学反応させて電気を取り出す燃料電池を車に搭載し、電気モーターを駆動力として使う燃料電池車の開発が進められている。発電した電気をいったんバッテリーなどに蓄えたうえでモーターを駆動させる。燃料電池からは電気と水しか出てこないので、CO2の排出をゼロに抑えられる“究極のエコカー”として注目されている。
燃料電池車に積極的に取組んでいるホンダは「FCX」を2002年12月、日本の内閣府と米ロサンゼルス市に納車して以来、日米で30台のFCXをリース販売。2005年6月には世界で初めて米国の個人宅に納車した。
トヨタ自動車も2002年12月から燃料電池車をリース販売しているほか、日産も燃料電池車に取り組んでいる。とはいえ現状では、ハイブリッドカーより先の未来の技術という位置付けだ。実用化にあたってはコストダウンのほか、水素を補充できる水素ステーションといったインフラを整備するなど課題をクリアする必要がある。
ガソリンのように水素を燃焼させて走る自動車の開発も進んでいる。マツダは水素を燃料とするロータリーエンジンを搭載した水素自動車「RX-8ハイドロジェンRE」のリース販売を2006年2月からスタートさせている。
このクルマは運転席の切り替えスイッチでガソリンでも走行できるのが特徴だ。4月には広島県と広島市に納車した。これまで国や自治体は燃料電池車の普及に力を入れており、水素自動車が自治体に導入されるのは初のケース。
水素がなくなってもガソリンで走行できるので、水素を補充するインフラの整備が十分に進んでいなくても安心して乗っていられる。2006年末までに計10台ほどリース販売したい考え。車のクリーン化に向けた地道な活動だ。
生物資源のバイオマスを加工処理してできるバイオエタノールなどのバイオ燃料を活用する方法もある。バイオマスの炭素は光合成によって大気中のCO2が固定されたものなので、バイオマスを燃焼させても大気中のCO2は増加しないことから、化石燃料の代わりにバイオ燃料を利用することで温室効果ガスを削減することができる。環境省のエコ燃料利用推進会議は、2010年までに原油換算で50万kリットルのバイオ燃料を輸送用燃料として導入するとしている。
トヨタ自動車では、バイオエタノールを10%混ぜたガソリンを全ガソリンエンジンで使えるようにしているほか、2007年春をめどに、エタノール100%燃料にも対応できる自動車をブラジル市場に投入する方針を打ち出している。自動車メーカーとしてバイオ燃料に取り組む動きも活発化してきている。
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