経済産業省は7月、国内の総合電機メーカーや大学など38団体とともに、国産の検索エンジンを開発する「情報大航海プロジェクト・コンソーシアム」を設立する。企業や大学がこれまで研究してきた検索技術やノウハウを持ち寄り、成果物はオープンソースとして広く公開する考えだ。
検索エンジンの分野では現在、Google、Yahoo!、Microsoftといった米国の大手企業が火花を散らしている。この分野で国が音頭を取って研究開発を進める狙いは何なのか。経済産業省 商務情報政策局 情報政策ユニット 情報経済企画調査官で、今回のプロジェクトを推進した立役者である八尋俊英氏に聞いた。
まず前提として、現在は情報がとにかく山のように沢山あり、その中から必要なものだけをうまく抽出して知識化する技術が求められているということがあります。こういった「知識化」をできる国とそうでない国や企業では大きく違ってくるという議論を、これまで経済産業省内でずっとしてきました。
例えば、10年前、ちょうどYahoo! JAPANができたころは、集客力の大きいサイトのトップページに広告を掲載するのが主流でした。これはテレビの延長線上でイメージできるので、非常に分かりやすかった。しかしいま急速に普及している検索連動型広告では、ある言葉と別の言葉をうまく関連づけた人が勝つといったことが起きています。
そしてこの延長線上に、言葉と画像や映像が結びつくといったことが起きる。今ある画像検索は画像にひもづいたテキストを検索しているに過ぎませんが、特に情報家電などの分野では、画像や映像自体を検索のクエリとして利用するようになると考えています。その時に、今のキーワード検索に代わるようなものを誰が作るのだろうか、という議論になったんです。例えば、大阪を定義するものがたこやきなのか、道頓堀なのか。そういうことが実は非常に重要になります。
そして、これを実現するための技術、例えばオントロジー技術(※編集部注:言葉を体系づけて機械処理できるようにするための技術)などは、日本でもいろいろな企業や大学が研究を進めてきました。ただ、ある意味Googleがすご過ぎるがゆえに、大量の情報を処理する技術の研究開発がどこも止まっていたんです。
もともと情報家電が強い日本ですから、画像のハンドリング技術はあります。また、大量情報の中から特定のデータを探し出す技術は、実は日本もかつては強いものを持っていた。検索エンジンは、実は米国よりも日本のほうが開発が早かったくらいですから。ただ、多くの人が無料で利用できて、広告が表示されるというようなモデルで提供したものがないだけなんです。
これは自然言語処理技術(※編集部注:「2002年のワールドカップで優勝した国は?」といった自然文をコンピュータが理解して処理する技術のこと)でも同じです。京都大学の研究水準は世界でもトップクラスで、いまでもGoogleに追いつかれていないとまでいわれている。でも、「自然言語処理でなにができるの?」と言われてしまって、研究者が冷遇されてしまっているのが現状です。
もともと日本がこの分野に弱いというのならば話は別なのですが、実際のところ、要素技術は日本のほうが強い。問題は、それぞれの技術がいろいろな企業や大学に点在していて、しかもその技術をどう生かすかという目標がこれまで存在しなかった点にあります。
また、いまは企業が業績を四半期開示するようになるなど、短期間で収益を上げることが求められています。そのため、企業の研究所でも10年先を見据えた研究が少なくなっています。
そこで、情報経済社会の基盤となるイノベーションプラットフォームの部分はみんなで情報開示をしてしまって、アプリケーションの部分でそれぞれの企業が競争するようにしようと呼びかけたのが今回のプロジェクトです。プラットフォームについてはみんなでノウハウを共有して活用しようということです。
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