昨年つくられたソニー(の米国法人)の「広告」のなかで、おそらく最も出来が良かったのは、実はあるユーザーが制作したものだった。
「Sony Transformation」というこの洒落たビデオには、1台のステレオが登場する。そして、このステレオが映画「マトリックス」ばりの圧倒的な特殊効果によって、ほかのさまざまな電子機器に次々と変身していく。
このビデオをつくったのはTyson Ibele氏という18才の若者だった。独学でアニメーションを学んだIbele氏は、ミネソタ州のミネアポリスにあるMAKEという小さなビジュアルエフェクト専門のスタジオで働いていた。そして、この職場でデモ用に制作したのがこの「Sony Transformation」というビデオだった。ところが、このビデオがCurrent TVの幹部の目にとまった。同社はAl Gore元副大統領が会長を務める独立系テレビネットワークで、視聴者の制作したコンテンツに力を入れている。同社の幹部は、Ibele氏に電話をかけ、ソニーやトヨタ、L'Orealなどの広告主のためにCurrent TVが実施したV-CAM(視聴者制作CM)コンテストへの出品を要請した。しかし、彼らがまず最初に行ったのは簡単な事実確認だった。
Current TVのクリエイティブディレクターColin Decker氏は、「(このビデオを)ソニーに持ち込み、『正直に言って欲しい。これはあなた方が制作した作品ではないのか』と聞いたが、彼らの答えは『ノー』だった」と述べている。
ブログがバンパーステッカーのようにありふれたものになり、またYouTubeによってバイラルビデオが全盛期のNapsterを使ったダウンロードのような盛り上がりを見せているなかで、アイデアをさがすマーケティング担当者が一般の人々に目を向けているのも不思議なことではない。批判広告一色といった市場のなかで、企業各社は次々とこのバイラル戦略に便乗し、なんとか消費者の心をつかもうとしている。
一方、デジタルビデオカメラの低価格化やコンピュータの高性能化、使いやすいビデオ編集ソフトの登場、そしてブロードバンド回線の急激な普及などにより、ノートPCとわずかな想像力を持ち合わせる人間ならだれでも、これまで手の届かなかった方法で、容易に自分を表現できるようになっている。
「従来のマーケティング手法では不十分だ」と、Current TVのDecker氏は言う。同氏は、特にCurrent TVの視聴者である18〜34才の年齢層を中心に、視聴者が制作した広告の人気が高まると予想している。「この年齢層は、オーバーで強引なものに対して肯定的な反応を示さない」(Decker氏)
Current TVのV-Camコンテストでは、視聴者が7部門あるコンテストのいずれかにビデオを出品し、その作品がネットワークで放映されることが決まると1000ドルの賞金が支払われる仕組みになっている。このコンテストで、トヨタはYaris(日本名「ヴィッツ」)の新型モデルの広告を探しており、また「High-Intensity-Pigments」シリーズの宣伝を展開するL'Oreal Parisでは、「Women of Worth」の魅力を語る顧客の映像を求めている。ソニーは、ハンディカムやウォークマンのマーケティング用CMのほか、同社のスタイルを表す一般向けの広告も探している。
L'oreal Parisは、「Varsity World.com」というティーンエイジャー向けエンターテインメントサイトで実施された「You Make the Commercial Contest(自作CM大賞)」にも協賛している。このコンテストで優勝したのは、カリフォルニア州にあるグラニテベイ高校の生徒2人が制作した「Juicy」というビデオで、若い女性がL'Orealのリップグロスを付けると、その唇と恋愛がカラフルになるという内容のものだった。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス