グーグルの中国向け新サイト--検閲の実態を探る

文:Declan McCullagh(CNET News.com)
翻訳校正:坂和敏(編集部)
2006年01月30日 10時44分

 Googleが新たに開設した中国向けの検索ページでは、中国政府に対して疑問を呈する多くのウェブサイトだけでなく、未成年者の妊娠や同性愛、出会い系、ビール、ジョークも検閲の対象となっている。MicrosoftやYahooが提供する同種のサービスでは、ここまで広く検閲は行っていない。

 さらに、Googleが検索結果の検閲を行う場合は必ずユーザーに告知すると同社の共同創業者であるSergey Brinが公約していたが、それにも関わらず同社はユーザーに告知しないままウェブサイトの検閲を頻繁に行っていたことが、CNET News.comの調べでわかった。

 Googleの中国版サイト「Google.cn」では、誤って一部のウェブサイトを検索結果から除外してしまったようだ。例えば、ペンシルバニア大学工学部では、管理するサイトの中に「法輪功」に関するものが含まれていることから、工学部のサーバ全体がGoogle.cnの検索結果から除外されている。また、英国エセックス州(Essex County)のウェブサイトもドメイン名の「Essex」の中に「sex」という文字が含まれていることから除外対象となっている。さらにGoogle.cnでは、ライバルであるMicrosoftの検索サイト「search.msn.com」を検索しても、結果に表示されない。

 また、検索結果もいいかげんだ。例えば、英語で「天安門広場(Tiananmen Square)」と検索しても、表示されるサイトもあれば表示されないサイトもある。天安門広場での民衆の抗議行動とその後の大虐殺を扱った「Tsquare.tv」と呼ばれるサイトは除外されていたが、オンライン百科事典「Wikipedia」にある天安門関連の項目は表示された。また「Tiananmen Square」でイメージ検索を行うと、1989年の大虐殺前にある学生が戦車の前に立ちはだかり、戦車の行軍を阻止しようとしている場面を撮影した、天安門事件の象徴的写真が表示された。また、検索語を英語と中国語のどちらで入力するかによっても、検索結果は異なるようだ。

 CNET News.comは米国時間25日からGoogleに対するインタビューを開始し、同社の広報担当者から複数の質問に対する回答を得た。Googleの広報担当者によると、除外されたサイトの中には人的ミスによって除外されたものもあるが、このようなミスは新サービスが導入される際には予測されるべきことだという。また、その他のサイトの除外については、検索各社が足並みを揃えて遵守に努めている中国の検閲法に従った結果だとしている。26日までに、これまで除外対象となっていたペンシルバニア大学工学部のサイトや「Budweiser.com」など、ごく少数のサイトの表示が認められたが、同じ酒類関連でも「Guinness.com」の表示は許可されなかった。

 Googleは先週、この中国向け検索サイトを開設した際、新サービスによって中国国内にいるユーザーの情報へのアクセスが拡大するとし、中国共産党の命令遵守を決めた自社の決断を弁護した。しかし、「Don't be evil(邪悪になるな)」を社訓とする同社だけに、この選択は論議を呼んだ。

Google.cnでの検閲状況
Googleが新たに解説した中国向け検索サービスでは、ジョークやコンピューターセキュリティ関連の話題を含む、さまざまなウェブページが表示されない。以下に、検索大手3社の対応状況を整理した(「OK」は検索結果に表示されるもの、「Deleted」は表示されないものを示している。右上の「+」をクリックすると表が拡大表示される)
Show some/all
Web siteTypeGoogleMicrosoftYahoo
bacardi.comAlcoholDeletedOKOK
badpuppy.comGayDeletedDeleted (1)OK
bignews.orgNewsDeletedDeletedDeleted
beerlabels.comAlcoholDeletedOKOK
bombaysapphire.comAlcoholDeletedOKOK
budweiser.comAlcoholDeleted (4)OKOK
catholiclesbians.orgReligiousDeletedOKOK
chinesenewsweek.comNewsDeletedOKDeleted
collegehumor.comHumorDeletedOKOK
date.comDatingDeletedOKOK
ebaumsworld.comHumorDeletedOKOK
falunasia.infoAdvocacyDeletedOKDeleted
faluncanada.netAdvocacyDeletedOKDeleted
funnyjokes.comHumorDeletedOKOK
gaycenter.orgGayDeletedOKOK
gaycrawler.comGayDeletedOKOK
gaytimes.co.ukGayOKDeletedOK
gio.gov.twGovernmentOKDeletedDeleted
guinness.comAlcoholDeletedOKOK
hightimes.comDrug useDeleted (5)OKOK
hrw.orgAdvocacyDeletedOKDeleted
jackdaniels.comAlcoholDeletedOKOK
jokesgallery.comHumorOKDeleted (1)OK
lesbian.comGayDeletedOKOK
libertytimes.com.twNewsDeletedOKOK
lingerie.comSexDeletedOKOK
mm52.comEntertainmentDeletedOKOK
netfirms.comWeb hostingDeletedOKOK
network54.comCommunityDeletedOKDeleted
neworder.box.skSecurityDeletedOKOK
news.bbc.co.ukNewsDeletedDeletedDeleted
omnitalk.comCommunityDeletedOKDeleted
penthouse.comSexDeletedDeleted (1)Deleted
playboy.comSexDeletedDeleted (1)OK
pressfreedom.comAdvocacyDeletedOKDeleted
queernet.orgGayDeletedOKOK
resist.comRacistDeletedOKOK
rsf.orgAdvocacyOKDeleted (2)Deleted
savetibet.orgAdvocacyDeletedOKDeleted
search.msn.comSearchDeletedOKOK
seas.upenn.eduAcademicDeleted (4)OKDeleted
sonicnet.comMusic (VH1)DeletedOKOK
sxetc.orgSex ed.DeletedOKDeleted (3)
teenpregnancy.orgSex ed.DeletedOKOK
theagitator.comBlogOKDeletedOK
thisisessex.co.ukLocalDeletedOKOK
time.comNewsOKDeletedOK
voa.govGovernmentDeleted (1)DeletedDeleted

注 (1): サブドメインは遮断されていない可能性もある。たとえば、「badpuppy.com」のトップページは表示されなくても「gaytoday.badpuppy.com」は表示されるかもしれない。

注 (2): このウェブサイトは、英語表記の「Reporters Without Borders」では見つかるが、フランス語表記の「Reporters Sans Frontiers」では表示されない。

注 (3): 「SexEtc.org」はYahooの中国向け検索では表示されないが「SxEtc.org」というエイリアスは表示される。

注 (4): 「www.usmarriagelaws.com」はMSN Searchでは表示されなかった。

注 (5): 「Budweiser.com」やペンシルバニア大学工学部のウェブサイトは一時はGoogle.cnの検索結果から削除されていたが、26日にCNET News.comが問い合わせを行った後に、表示されるようになった。

注 (6): 雑誌「High Times」が使う別のドメイン名「420.com」は検索結果に表示された。

 最近、検索エンジン各社の人権擁護に対するコミットメントを監視する動きが活発化しており、それらの企業が抑圧的政権の命令を遵守する道を選択したことに対する批判が高まっている。米議会は、向こう数週間以内にこの問題に関する公聴会の開催を予定している。またChris Smith下院議員は25日、Googleは「(民主主義活動家ら)の迫害者に協力している」と述べ、同社を痛烈に批判した。

 中国国内からの米国Googleサイト(「Google.com」)へのアクセスは、経済上あるいは政治的理由による制約があるため、大半の中国人ユーザーは国内の検索エンジンに頼らざるを得ない。GoogleのBrinの推計によると、中国国内のユーザーでGoogle.comを利用できるのは全体のわずか半数にすぎないという。また他の報告によると、中国国内でGoogle.comに「天安門広場」などの検索語を入力すると、その直後から、同サイトは数時間アクセス不能になるという。

 ワシントンDCに拠点を置く「未成年者の妊娠を防止するための全国キャンペーン(National Campaign to Prevent Teen Pregnancy:NCPTP)」の広報担当、Bill Albertによると、同団体のサイトはこれまでYahooの中国版サイトやMicrosoftの中国版MSNで除外対象となっていなかったことから、Google.cnで同サイトへのアクセスが禁止されていることを知って落胆しているという。「われわれのサイトは、米国における十代の妊娠/出産率に焦点を当てており、外国からの利用者も多い。われわれは、このテーマに関する対話の糸口としてこのサイトを今後も維持していきたいと考えている」(Albert)

 Googleの米国版サイトで「teen pregnancy(十代の妊娠)」を検索したところ、NCPTPのサイトが検索結果の一番上に表示された。ところ、全く同じ検索をGoogle.cnで行っても、NCPTPのサイトは表示されなかった。Googleは、NCPTPのサイトを検索結果から削除したことをユーザーに告知していない。

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