中国の台頭と米国の危機--技術教育にみる両国の将来

文:Christopher Nordlinger(CNET News.com)
翻訳校正:河部恭紀(編集部)
2006年01月19日 17時22分

 急成長のまっただ中にある中国は今まさに日の出の勢いである。得られる資源はすべて飲み込み、惜しみなく工業化につぎ込んでいる。

 しかし、実質的に巨大な資本主義国家といえる中国は、物理的な資源だけでなく、人的資源、すなわち訓練された知的労働者人口が経済成長に欠かせない要素になることを米国よりもよく理解しているように思える。

 その点に関して米国はあまりに無頓着であり、考えを変える必要がある。

 2004年の米国の対中貿易赤字は、前年比30.6%増の1620億ドルに達した。米商務省によると、これは米国の貿易赤字で大きな部分を占めているという。中国が最大の経済的脅威として台頭してきていることは明らかである。

 10億を優に超える人口を抱える中国では、肉体労働者の供給はいくらでも可能だ。しかし、主要産業が土産物から半導体に変わってきている今、中国は、従来の肉体労働に重要な付加価値を加えることができる労働者を育成することの重要性を認識している。つまり、知的労働者の技能は、数学や科学の熱心な基本的訓練があってこそ得られるという点を認識しているのだ。

 過去数十年の間、中国の優秀な学生は米国の高等教育に惹かれて頭脳流出し、米国の科学および技術業界で高報酬の仕事に就いてきた。もう1つの急成長国で米国の競争相手であるインドでも、膨大な数の若者が欧米での高等教育とキャリアを求めて流出してきた。

 しかし、歴史の不幸な偶然ともいうべき9.11テロ以降、海外からの学生は、米国の大学や大学院の技術課程(工学から数学まですべて)に簡単には入学できなくなった。それまでは、海外からの学生が技術系の学校にあふれ、そのまま米国に滞在して、世界でトップクラスの技術力を持つ米国経済を支えてきていた。しかし、9.11以降は、無理からぬことではあるが、米国で学ぶ外国人学生に対するセキュリティ上の懸念のほうが強くなり、これらの学生を受け入れなくなってきている--この傾向は変える必要がある。

 そうしたなかで、2004年には技術分野の博士課程を目指す出願者の数が22%も減少した。これだけ大幅な減少は米国史上初めてのことだが、これは技術系の学生のかなりの部分を海外からの留学者が占めているためである。インド人の出願者は36%減、中国人の出願者は45%減と軒並み減少している。

 労働力、資本、情報が国家の垣根を越えて流通している今、これは極めて憂慮すべき事態といえよう。こうした傾向に早期に歯止めをかけなければ、米国は石油だけでなく、経済成長に欠かすことのできない技術者まで外国に依存することになるだろう。そして、そのことがエネルギー資源の海外依存よりもさらに壊滅的な結果を招くことになる。

 皮肉にも、米国政府が国内企業に対し、従業員に対するストックオプションの付与を制限し始めたのと同時期に、中国企業では従業員へのストックオプション付与を始めている(ストックオプションは、過去30年間にわたって技術の成長を促してきたインセンティブだ)。この現実を毛沢東に見せてやりたいものだ。

 民主主義と知的財産の尊重という点では、中国の現状はまだまだひどいレベルにあるが、教育に関して彼らが成し遂げたことは賞賛に値する。中国は、近代で最も注目に値する教育システムの拡充を成し遂げた。膨大な人と資金をつぎ込むことで、わずか10年の間に大学生および大学院生の数を5倍に増やしたのである。

 それに対して、米国では連邦政府が教育問題を後回しにする態度をとっているので、民間がリーダシップを発揮するしかない。

 技術コミュニティが牽引する米国の企業は、技術教育構想を実施に移すべきだ。数十億ドルを寄付して、モデルとなる技術教育課程を新設し、インターネットによる個別指導などにより、12年間の義務教育における科学および数学教育の向上を図るというのはどうだろう。また、低所得者層が住む都市部や遠隔地の公立学校で技術科目を教えることを選択した学生に対して生涯給付金を支給する必要もあるだろう。

 もちろん、このように義務教育で科学と数学の教育を充実させるだけでは充分とはいえない。こうした「難しい」科目に対して、学生にもっと興味を持ってもらう必要がある。それには、セレブのParis Hiltonよりもロボット工学のほうが魅力的だと思わせ、テレビの人気番組「American Idol」よりも遺伝子光学のほうが面白いと思わせなくてはならない。

 そうなれば、連邦政府も腰を上げて財政的に援助してくれるだろう。しっかりとした学校教育の基盤を作り、技術教育を充実させることは最も愛国的な行為になり得る。まずは、そのことを認識することだ。経済競争のことを考えるのは、その後である。

著者紹介
Christopher Nordlinger
タフツ大学Fletcher School of Law and Diplomacyで国際経済学の博士号を取得。その間、フルブライト奨学生としてヨーロッパとアフリカで学ぶ。現在は、Cisco Systemsの教育プログラムの策定に携わる一方、フルブライト協会のScience, Technology and Environment Task Forceの議長でもある。このコラムの内容は氏の個人的な意見であり、Cisco社とは関係ない。メールは、christopher@thepromiseofeducation.comまで。

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