変化対応を実現するITマネジメントとは--ITの役割、セキュリティ、人材から考える

 コンピュータ・アソシエイツは10月8日に「ITマネジメントソフトウェア・フォーラム」を開催し、「多様なビジネス環境に柔軟に対応できるITのマネジメントとは」と題したパネル・ディスカッションを行った。モデレータに日経コンピュータ発行人兼編集長の横田英史氏、パネリストとして経済産業省 商務情報政策局 情報経済課 情報セキュリティ政策室の田辺雄史氏、一橋大学 イノベーション研究センター教授の米倉誠一郎氏、コンピュータ・アソシエイツ代表取締役社長の三ッ森隆司氏の3名が参加した。

 冒頭に横田氏が「国内設備投資費が上向きになっており、なかでもIT投資は29%だといわれている。ところが米国では設備投資費のうちIT投資が占める割合は4割以上にのぼり、両国間のIT戦略における差が数値として現れている」と述べ、パネリスト3名に問題を提示。田辺氏は特にセキュリティに主眼を置いたセキュリティ対策の重要性について、米倉氏は企業戦略におけるITの重要性と人材について、そして三ッ森氏は日米におけるソフトウェア投資の動向について、それぞれの見解を明らかにした。

 まず冒頭の問いに対して、米倉氏は「ITは企業戦略の観点から考えるべき」と述べ、経営者やCEOの関与が必要だと提言。さらに「CIOがITのプロフェッショナルとして、企業におけるITプロジェクトの中でコスト・技術・ROIすべてを統括しなければならない」との見解を示した。続いて田辺氏は、国のセキュリティ政策担当という立場から「ITはいまや社会の神経系。ここを攻撃された場合の影響力を正しく認識し、適切なセキュリティ対策に投資する必要がある」と述べ、ITガバナンスにおける情報セキュリティの重要性を強調。また、9月に発足した「情報セキュリティ研究会」についても触れ、「研究会で議論しているセキュリティのベンチマークを参考に、セキュリティ投資を行うべき」と主張した。三ッ森氏は、「システム基盤をマネジメントすることは、(1)システムの投資対効果を最大化すること、(2)ビジネスを止めない安全性を確保すること、(3)変化成長と環境適応力を向上させること、の3点に尽きる」とし、「それぞれについてITを有効活用することで、効果を上げることができる」と述べた。

人材育成を企業だけに任せるな

 続いて議論は「人材育成問題」へと進んだ。横田氏が「企業が変化対応力や環境適応力を付けるためには、課題を正しく認識し、それを具体的なITへと落としていく人材が不可欠になる」と問題を提起すると、大学教授である米倉氏は次のように述べた。「米国では時代に合った人材を輩出するために教育カリキュラムを継続的に見直している。ところが日本の場合、画一された教育カリキュラムに立っており、人材育成は企業のOJTにまかせっきりにしているという問題がある」(米倉氏)

 米倉氏のコメントに対し、田辺氏は「大学改革は確かに重要なテーマだ」という見解を示しつつ、現在経済産業省が行っているIT人材育成の取り組みについて説明した。具体的には、IT分野の人材モデルについては「ITスキル標準」などを提示することで理想的な技術レベルを提示している。また「資格試験などもレベルに応じて区分けすることで、正しく人材のスキルを判断する材料として活用できる」と示唆した。ただし、経済産業省は基本的に産業分野に焦点を当てた政策を立案しているため、米倉氏が提示したような産学連携の人材育成についてはまだ不十分なところがある。これについては、まだ具体的な取り組み案が出てきていないのが実際のようだ。

変化対応のために必要なITマネジメントとは

 いまITに期待されている役割とは何か。三ッ森氏は「ITツールを使い、どのようにビジネスの仕掛けを作るかが重要」とし、この戦略立案部分に企業の人材を投入することの重要性を説いた。

 米倉氏も三ッ森氏の見解を全面的に支持。米倉氏は「その戦略人材としてCIOが重要になる」と述べ、セミナーに集まった来場者を前に「CIOというキャリアパスを認め、将来企業を担う根幹の人材を配置すること」と訴えた。

 ここで横田氏は「変化対応の中には、次々に生まれるウイルスなどに対するセキュリティ対策が重要になるのでは」と疑問を提示。実際に日経BP社の調査結果を例に、ユーザー企業の情報システム担当者の多くがセキュリティ対策に悩んでいることを明らかにした。横田氏の発言に、田辺氏もうなずきながら「セキュリティ対策のレベルが企業の格付けに使われる時代が来る」と述べ、日米企業におけるセキュリティ対策の差異について警鐘を鳴らす。「米国では74%の企業がセキュリティ対策を施しているが、国内企業は40%ほど。しかしセキュリティ事故がビジネスにおよぼすマイナス要因を考えると、セキュリティをおろそかにはできないはず。技術が進歩し、新しい脅威が生まれる今日、セキュリティ対策にもっと目を向ける必要がある」(田辺氏)

 最後に「IT環境への取り組みとして、来場者に一言ずつ」(横井氏)という言葉を受け、パネリスト3名がそれぞれ、「CIO、立ち上がれ!」(米倉氏)、「最終的にどのようにITを使うかという判断が重要になる」(田辺氏)、「ITをうまく利用し、自動化できる部分は自動化させてマネジメントをうまく回していこう」(三ッ森氏)と発言。これを受けて横井氏が「企業マネジメントをネックレスに例えれば、個々のビーズがERPやCRMなどの手法に相当し、それをつなぐ紐がITでありマネジメントといえる。この紐がしっかりしていないと、変化が激しいビジネス環境で生き残れない」と締めくくった。

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