ソフトバンクの日本テレコム買収に続き、京セラとカーライルによるDDIポケット買収が発表された。これらは通信業界に大きな変化が訪れていることを如実に物語っている。ただ、これらは同じ買収というイベントではあるものの、方向性はかなり異なっている。すなわち、ソフトバンクが国内市場に注力した総合通信事業を目指すのに対して、DDIポケットは総合通信事業者であるKDDIグループからの離脱によってPHSに特化し、海外での事業展開をも見据えたものになっている。今回はDDIポケットの、あるいはPHSのあるべき戦略の方向性を検証してみよう。
現在、日本におけるPHS市場は510万加入程度で、ここのところ年々数%という勢いで縮小している。しかしながら、この全体傾向に対してDDIポケットは顧客規模をほぼ維持している。データ通信に特化したAirH"サービスに関してみれば100万加入を越えるなど顧客数を伸ばしているほどだ。
また、日本で開発されたPHSは海外で採用されるケースもあり、今回の買収に参加した京セラにとって、端末や設備機器などの販売で海外は大きな市場となっている。具体的には、台湾やタイでDDIポケットとのローミングが可能になっているほか、中国では 「小霊通(実は中国電信(China Telecom)のブランド名で、正式なサービス名称はPAS(Personal Access System)やPCS(Personal Communication System))」と呼ばれ、今年中に1億加入を突破する勢いになっているほどだ。
PHSは固定電話回線網の活用を促進することを目的に開始された既存通信インフラを活用するワイヤレスローカルループ(無線加入回線サービス)であり、今話題のTDD(時分割復信)を採用することで周波数帯域を効率的に利用することが可能だ。そもそもの成り立ちという点で、縦横無尽の移動性を提供するために新たなネットワーク構築が必要な携帯電話サービスと異なり、通信事業に必要不可避な膨大な設備投資と設備維持費を低く抑えることが可能となっている。
また、基地局設備も廉価で小型だ。多数の設置が必要であるとはいえ、既存通信設備の延長上に付設するだけだから、比較的設置コストも少なく済む。出力が小さい分、電力消費量も少なく、端末の小型化も容易だ。放出電磁波が少ないため、中国では「クリーン」で安全な電話として認知されている。
おまけに、データ通信では現在128kbpsが可能だが、DDIポケットは256kbpsまでの高速化を年内にでも実現すると語っており、すでに政府答申が出されている1Mbps化すら可能である(もちろん、このためには大幅なネットワークの改良が必要になる)。すでに定額制を導入しているPHSなら、今後高速化を指向するモバイル・ネットワーク需要にも当面対応可能だろう。
成長への道筋をいかにつけるか
このように、技術的、経済的にはかなり優位な立場にあったPHSだが、日本の市場では携帯電話に席巻された。もちろんその後、データ通信に特化した形での生き残り策がとられ、リーダーであるDDIポケットは粗利率12%を超える良好な事業としての位置づけを得ている。だが、課題はいかにして「成長」するか、だ。
すぐに話題として上るのは、中国のような急速な成長を見せる海外市場だ。が、DDIポケットがそのまま海外の地域通信市場に参入できるものではなく、買収はおろか株主としての参加も困難な場合が多いはずだ。この場合、NTTドコモのiモード海外戦略の失敗を見るように、生半可な挑戦は痛い思いをするだけになるだろう。
そこで、すでにカーライル・グループ マネージングディレクター日本代表の安達保氏が表明しているように、現状の市場を現状の経営と部隊で手堅く押さえることを第一命題するのは、やはり正しい。そして、後述するような脅威に対して十分に対抗できるサービスやプロダクトであり、かつ海外に輸出しても収益を得られる仕組みを国内市場で早期に開発することが、最終的に海外市場での成功=「成長」のシナリオになっていくのではないだろうか。しかし、これは、早々簡単にいくものではない。なぜなら、現在成長中の海外PHS市場でも、ほぼ日本と同じ構造的な脅威にさらされているからだ。
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