企業のアプリケーションを統合するにあたって考えられるシナリオにはどのようなものがあるのか。ガートナージャパン主催のイベント「アプリケーション統合&Webサービス 2004」にて、Gartnerのバイスプレジデント兼ディスティングイッシュトアナリスト ロイ・シュルテ氏が基調講演を行い、アプリケーション統合における3大移行戦略を語った。
シュルテ氏のいう3大移行戦略とは、「全面刷新」「ラッピングとエンジニアリング」「新規レイヤの追加」の3つだ。それぞれの戦略を同氏は解説した。
2つめの戦略であるラッピングとエンジニアリングは、レガシーシステムやパッケージ化されたシステムを、統一されたインターフェースのレイヤにまとめてしまうことだ。ひとつひとつのシステムに一貫性はないが、WebサービスやXMLなどを使って異機種混在環境における問題を隠してしまうという手法である。ただ、「ラッピングではデータとロジックの冗長性という問題は解決されない」とシュルテ氏は指摘する。「Webサービスなど、新しいSOA(サービス指向アーキテクチャ)を導入する際には有効な手法かもしれないが、データ統合やマルチプロセスインテグレーションのソリューションとしては適しているといえないだろう」(シュルテ氏)
3つめの新規レイヤの追加という手法では、レガシーやパッケージをそのまま残し、ロジックやデータを同期させるためのレイヤをネットワーク上に追加する。ラッピングとコンセプトは似ているが、ラッピングが特定のアプリケーションに対して行われるのに対し、レイヤの追加は複数のアプリケーションを視野に入れてインテグレーションを行うという考えだ。これには、ファイル転送やビジネスプロセス管理、データウェアハウス、エンタープライズ情報統合など、様々なツールを利用することになるが、「包括的な統合では多領域にわたる統制が必要で、全面刷新やラッピングとリエンジニアリングの戦略と組み合わせて実施すべきだろう」とシュルテ氏は述べた。
このような戦略に加え、さらに重要なこととしてシュルテ氏が強調したのは、アプリケーション統合のための専任グループをつくり、統合コンピテンシーセンターを設置することだ。企業内では数々のアプリケーションが使われているが、「個別のアプリケーション利用者の代表として集まったまとまりのないチームではなく、アプリケーション統合を目的とした専任のチームが必要だ」とシュルテ氏。この専任チームが、アダプタの開発支援や統合のための教育、システムの導入、テスト、管理などすべてを行うのが理想だという。
シュルテ氏によると、収益10億ドルを超える大規模企業が2003年上半期に統合コンピテンシーセンターを設置した割合は約30%だが、「2005年末までには半数を超える大規模企業がこのようなコンピテンシーセンターを設置するだろう」とし、多くの企業がこのようなセンターの設置を重要視していることを指摘した。
講演の中でシュルテ氏は、アプリケーション統合スイート市場のベンダーについても述べている。同氏は、各ベンダーの戦略の完全性やターゲットの広さを横軸とし、ベンダーの規模や人材といった実行能力を縦軸とした表を示し、2003年5月時点のマーケットリーダーとして、IBM、Microsoft、Tibco、webMethods、SeeBeyondをあげた。ただ同氏は、「この市場は非常に細分化されており、市場シェアトップのIBMでもシェアは20%、2位のTibcoに至っては9%のシェアとなっている。今後もこの状況は続き、どのベンダーも25%以上のシェアを獲得することはないだろう」と述べた。
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