IBMより優位な点は「シンプルさとパートナー戦略」:BEAスコット・ディッゼン氏に聞く

藤本京子(CNET Japan編集部)2004年03月03日 17時35分

 BEA Systemsの提供するWebLogicは、アプリケーションサーバ分野でIBMのWebSphereとトップ争いを繰り広げている老舗製品だ。BEAはシステムの複雑さを解決すべく、シンプルなアプリケーションサーバをうたい文句にWebLogicを提供し続けているが、1999年からはEAI(エンタープライズ・アプリケーション・インテグレーション)製品の提供も開始し、同市場に対する思い入れも強い。

 同社の競合となるのは主にIBMだが、Oracleをはじめとする他社ソフトウェアベンダーも続々とアプリケーションサーバ市場に参入しており、さらにEAI市場ではBEAより長年にわたってシステム統合製品を提供し続けてきた専業ベンダーも数多い。

 CNET Japanは同社の最高技術責任者であるスコット・ディッゼン氏にインタビューを行い、BEAが戦いの土俵とする市場について、またIBMをはじめとする競合企業といかに戦うかについて聞いた。

---まず、BEAが競合として意識している企業はどこかについて聞かせてください。

 主要な競合製品はIBMのWebSphereです。他社の競合製品の5倍から10倍の頻度でWebSphereとかち合うことが多いですから。また、Microsoftの.NETサーバサイド製品とも競合しているといえるでしょう。ただ、多くの顧客は.NETよりJavaを選択するようですね。ほかにもOracle、SAP、そしてオープンソースのソリューションも競合といえます。

---OracleやIBMはBEA製品からのマイグレーションプログラムを提供してシェアを奪おうとしているようです。BEAではそのようなプログラムを提供する考えはないのですか。

 マイグレーションプログラムを正式に提供する予定はありませんが、実際にはWebSphereのマイグレーションを多く手がけています。WebSphereからWebLogicへのマイグレーションは、四半期で20以上あるかもしれません。このような選択をする顧客は、パフォーマンスやサービス、コストなどが理由となっているようです。

 逆にWebLogicからWebSphereへのマイグレーションを行った顧客の例で思い浮かぶのは、企業合併などで買収した企業側がWebSphereを採用していたケースですね。WebLogicからOracle製品に変更したというケースは、現在私が知る限り世界中に1件もないのが現状です。

 WebSphereとWebLogicを選択する際に顧客が考える点は主に2つあります。1つはTCO(総所有コスト)、そしてあと1つはパートナー関係です。TCOについては、WebSphereがソフトウェアの歴史上最も複雑なものだとされていることからも(WebLogicの優位性が)わかるかと思います。例えば、WebLogicは1枚のCDにすべてが入っていますが、WebSphere 5.0のエンタープライズ版にはCDが54枚もついてきます。

 IBMの場合、1円のソフトウェアライセンスに対し、12円のサービスを販売しているのです。この比率は顧客との関係を長く続けるにはいい数字とはいえません。市場は、ライセンス料1円に対して5円のサービス料を支払えばよいソリューションへと流れていくでしょう。最終的にサービス料は2円程度になるかもしれません。現在BEAのサービス料金は、1円のライセンス料に対し6円から8円程度となっています。

 BEAでは、今後もWebLogicをシンプルで、簡単で、スピードのあるものにしたいと考えています。IBMは豊富なリソースを抱えていますが、WebSphereとWebLogicを比較した場合、WebLogicのパフォーマンスはWebSphereの2倍近いという数字もあります。開発者の効率性もWebLogicはWebSphereの2〜3倍だという調査がGartnerなどから出ています。顧客のROI(投資回収率)を考えた場合、どちらが有利かは明確でしょう。

 もう1つ重要な点は、パートナー関係です。IBMのWebSphereを利用している顧客は、ほとんどの場合IBMのグローバルサービスを利用しています。IBMグローバルサービスの規模は巨大ですが、世界中の市場の6〜7%程度に過ぎません。BEAが独自でIBMのグローバルサービスに立ち向かうことはできませんが、NECやAccenture、Hewlett-Packard、沖電気工業などとのパートナー関係によってIBMのグローバルサービスと同様のサービスを提供することができます。これらパートナーがリーチできる市場はIBMグローバルサービスよりずっと大きなものです。

---Oracleについてはどう考えていますか。最近Oracleでもアプリケーションサーバ製品を積極的に売り込んでいるようですが。

 Oracleは規模の大きな企業ですし、同社のアプリケーションサーバを採用したという話も時折耳にします。ですがOracleの一番の関心事は、データベース市場でのトップを維持すること、そしてSAPのアプリケーションと戦うことです。アプリケーションサーバを積極的に売り込んだところで、同社がこの2つの目的を果たせるとは思えません。その結果、同社がアプリケーションサーバにつぎ込む投資額は、BEAがWebLogicに投資している額よりずいぶん低いと思われます。

 顧客は、Oracle製品を使う際にOracleのアプリケーションサーバを採用するかもしれませんが、SIerでOracleのアプリケーションサーバを採用したというケースは聞いたことがありません。これはOracleにとって大きな問題です。

---WebSphereは、中小企業向けに安価なバージョンを提供していますね。BEAでWebLogicの中小企業向けバージョンを用意する計画はないのでしょうか。

 今後インテグレーション製品に関しては安価なバージョンを出す予定です。この市場をもっと活性化させたいですから。しかし実際は、中小企業をターゲットとする際に重要となるのは価格ではありません。重要なのは、いかに複雑さを取り除くことができるかです。社内にJ2EEのエキスパートを抱えなくても、システムを容易に構築し管理できる、これがポイントとなります。この点においてWebLogicはWebSphereより勝っているといえるでしょう。いかに価格を低く設定しても、WebSphereの複雑さは中小企業にとって受け入れやすいものではないですからね。

 データベースを例にとっても、IBMのDB2はOracleやMicrosoftのSQL Serverより困難だとされており、DB2が中小企業向け市場で大きく成功していない原因もそこにあると私は思っています。IBMはこれまで製品をシンプルにするという部分に力を入れていませんからね。DB2のみならず、同社のメインフレーム、OS2、TXSeriesなど、シンプルだと考えられている製品はひとつもありません。オープンシステム化が進む現在の状況下で複雑なシステムを提供し続けていると、ビジネスにも影響が出るのではないでしょうか。

 BEAでは、シンプルさに重点を置いています。実際、54枚のCDを簡素化するより、1枚のCDを簡素化するほうが簡単ですからね。

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