「不採算事業の切り捨てを恐れるな」:IBM北城氏、コア事業への集中を強調

藤本京子(CNET Japan編集部)2004年02月26日 14時56分
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 日本経済が今後成長を続けるためにはどうすればいいのか。日本IBM代表取締役会長で経済同友会代表幹事の北城恪太郎氏は26日、同社主催のイベントIBM Forum 2004にて基調講演を行い、日本経済の現状と課題について語った。

 このところ回復傾向にあるとされている日本経済だが、北城氏は実際に2003年の第4四半期の経済成長率が7%(年率換算)と、前年同期のマイナス0.5%と比べて大幅に伸びていることを指摘する。経営者に対する景気感調査でも、2003年6月には景気が拡大していると答えた経営者が2%であったのに対し、9月には39%、12月には69%という結果になったという。アジアに対する輸出も昨年は22%増と拡大し、特に中国への輸出は44%増にまで拡大、「これまで中国はモノを作る場所として見られていたが、今ではモノを売る場所としての存在感も大きくなっている」と北城氏はいう。

 ただ北城氏は、日本の現状に対する懸念も指摘する。それは、株式市場の回復傾向を受けて景気感も上がったように感じるが、「実際に株を買っているのはほとんどが外国人である」ということ。「国内での企業や個人の株売買に関しては、月単位でずっと売り越しが続いている。買い越しとなっている海外の投資家が利益確定売りに出た時のことが懸念される」と北城氏。さらに同氏は、日本の個人金融資産の56%が現金と預金で占められていることも指摘、「アメリカでは現金や預金での個人資産は11%で、株式が34%となっている。現在日本の株式資産は6%だが、今後株価が上がるにつれて株式への投資を増やす土壌を作るべきだろう」という。

新たな成長に向けて

日本IBM代表取締役会長 兼 経済同友会代表幹事の北城恪太郎氏

 現状をふまえた上で、北城氏は今後の成長に向けての課題を語った。まず重要となるのが、「国際競争力をつけることだ」という。

 北城氏は、日本の国際競争力について「優位性がある」と見ている。それは、顧客の目が厳しく市場が洗練されており、市場自体も巨大であること、また人材も優れていてチームワークがあることなどが理由だ。

 そこで現実として企業が強くなるには、「まず魅力のある製品を作らなくてはならない」と北城氏。同氏は、日本での普及率が50%を越えたシャワートイレや、昨年の出荷台数が48%増となった薄型テレビを例に取り、「日本ではいいものであれば高くても売れる」と断言する。中国と対抗して安価な製品を提供する分野で戦うのではなく、「他国にはできない分野を探すことが大切だ」という。

 つまり、コア分野への資源の投資が大切なのだと北城氏は説明する。さらに、不採算事業を捨てる勇気も必要だという。北城氏は、自身が日本IBMの社長を務めていた当時を例に出し、ハードウェアは今後低価格化が進むため、ビジネスを成長させるためにはソフトウェアやサービス事業が重要だとして方向転換したことを語る。「10年前のIBMは、事業の7割がハードウェアで3割がソフトウェアやサービスだった。いまではそれが逆転している。撤退した事業もあるが、撤退に対する後悔は全くない」という。

 また北城氏は、スピード経営の重要性も強調した。「意思決定を迅速に行い、決定事項を実行する際のスピードアップも重要だ。組織がフラットであればあるほどこれが実現できるため、風通しのいい企業環境が必要だろう」と北城氏。また、現場の変化をすぐにトップに伝えることのできる組織作りも重要だが、トップ自らが現場に出ることも勧めている。同氏は社長だった頃、現場からの正式な報告を待たずして、自らが気軽に現場に出かけて情報を得るManagement by Wondering Aroundという経営手法を実行していたと語る。

 北城氏はまた、「工場は人件費の安い海外に出ていってしまったが、研究開発における国際競争力を維持するために、研究開発拠点として日本が魅力的な国でなくてはならない」と指摘する。それは、ベンチャーや企業の中の技術者に対する環境を整えることに始まり、日本の教育制度や子供の育てやすさ、さらには住みやすさなど、国自体の政策にもいえることだ。

 ただ北城氏は、企業内の技術者が研究開発の成功報酬として企業を訴え、勝訴したケースに関して疑問を投げかけている。米国では企業と研究者との間に契約書が存在するため、このようなもめごとはないといわれるが、「それは決して研究者に高額な支払いをするというものではない」という。「例えばIBMの契約書の内容は、職務に関連する研究は会社に所属するというもの。研究が成功すれば表彰したりボーナスが支払われたり、その研究に関する施設への投資が増えたりといったことはあるが、それ以上のものではない」(北城氏)

 北城氏はこう続ける。「ハイリスク・ハイリターンを望むのであればベンチャーを起こせばよい。サラリーマンとしてノーリスクでやってきた者がハイリターンを望むのはどうかと思う。このようなケースで企業が敗訴してしまうと、日本で研究開発を行うのは危険だとして企業が逃げてしまう」。しかし北城氏は同時に、日本でベンチャーが育つ環境が整っていないことも理解しており、今後ベンチャー育成やエンジェルの税制改革などを行い、日本でもベンチャーによるイノベーションが行われるような土壌を作ることの重要性を強調した。

 最後に北城氏は、「景気が上向きの今こそ改革の好機だ」と述べた。「2004年は日本経済の夜明け。新たな成長のカギはイノベーションにあり、今こそ決断し、実行するときだ」と、イベント参加者のみならず日本社会全体へ向けてメッセージ送って講演を締めくくった。

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