「私たちはこれまで別に喧嘩をしていたわけではないので、今日は仲直りの会見ではありません」と、笑顔で握手を交わすT-Engineフォーラム会長の坂村健氏と米Microsoftバイスプレジデントの古川享氏。ユビキタスコンピューティング環境の実現を目指して活動するT-EngineフォーラムとMicrosoftは25日、T‐Engineプラットフォーム上でWindows CE .NETを動作させる環境の実現に向け、共同で仕様の策定を進めることに合意したと発表した。
坂村氏の開発したTRONは、過去にスーパー301条に基づき米国から締め出された歴史があり、MicrosoftのWindows OSとは犬猿の仲だとささやかれていた。しかし坂村氏は、「私は非営利団体の代表として活動しており、製品を売っているわけでもないので、Microsoftと喧嘩をする立場にはない」と主張。また、Windowsは数値計算などのために作られた情報系OSカーネルであって、機器制御などのために作られたTRONのようなリアルタイムカーネルとは全く別のものであると説明し、「用途や技術的フォーカスが違うものなので、対立のしようがない」と述べた。
今回の提携で、MicrosoftはT-Engineフォーラムに幹事会員として参加、T-Engine上にT-KernelとWindows CE .NETの共存環境を実現するための仕様策定を開始するとともに、T-Engineプラットフォームの普及に向けたマーケティング活動や技術者指導などにおいても協力する。古川氏によると、「12月のTRON Showでは、実際にT-Kernel上でWindows CEが動いているものを見せることができるはず」とのことだ。
T-Engineフォーラム会長の坂村健氏(左)と米Microsoftバイスプレジデントの古川享氏 | |
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両者の提携で、具体的にどのようなユビキタス機器ができあがるのか。まず基盤となるのは、共通プラットフォームとして多種多様のCPUをサポートする標準開発環境のT-Engineボードだが、その上でT-Kernelがハードウェア動作の制御を行い、リアルタイム性の必要な処理を行う。そしてWindows CEが使いやすいユーザーインターフェイスを提供し、ウェブブラウザやマルチメディア機能、PCとの連携を実現させるといったものが想定できる。
古川氏によると、Microsoftがシェアードソースコードプログラムでソースコードを公開するといった動きがある中、T-Engineフォーラムには設立当初より興味を持っていたとし、今年2月にMicrosoftとして参加することを検討しはじめていたという。古川氏が同社会長のBill Gates氏にこの件を打診したところ、Gates氏は「とてもエキサイティングだ」と答えたという。「Gatesがエキサイティングと言ったのには2つの意味がある。ひとつは(OSに変更を加えなくてはいけないため)技術的なチャレンジがあること、そしてもうひとつは、今回の提携により新市場の形成につながるということだ」(古川氏)
坂村氏は言う。「情報システムは、これまでのように各社独自の技術だけでは発展しない。これからは標準的な技術が必要で、そのためには協力が不可欠だ。世の中が協調分散システムに向かう中、同じようなものを作って戦うのはばかげている」。また古川氏も「今回の提携は、情報産業界が新しい方向に向かっているということを示す役目も果たしている」と語った。
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