東京大学教授の坂村健氏は25日、同氏が教鞭を取る東京大学構内にて特別講演会を行った。坂村氏にとって構内での講演は今回初となり、「まるで退官式のようだ」と観衆を笑わせつつも、「これからもやることはたくさんある」とし、現在の坂村氏の取り組みについて語った。
坂村氏がかつてより実現に向けて取り組んできたのは、ユビキタスコンピューティングの世界を作ること。同氏はユビキタスIDセンターを設立し、「モノ」を自動認識するための基盤技術の確立と普及に向けて活動を続けている。「すべてのものにコンピュータが組み込まれる世界を想定している。そのためにuID(ユビキタスID)という超小型チップを開発し、状況判断できるコンピュータを目指す」(坂村氏)
東京大学教授、坂村健氏 | |
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坂村氏は実際に、小型チップを埋め込んだ薬箱のデモを披露。ユビキタスコミュニケータという読み取り機を使って薬箱のチップの情報を読み込み、薬の種類や有効期限、また他の薬との同時服用が可能なものかどうかをコミュニケータが通知する場面を見せた。他にも坂村氏は、生鮮食料品の製造過程を追跡できるという実証実験をはじめるという。これは、食品の生産段階から流通、販売の経過を記録し、その情報を消費者に提示できるというもの。また生産者側も、気候の状況によってどの程度の農薬をまけばいいのか、安全な範囲での細かい条件を設定し、農薬の散布が自動化できるようになるという。
ユビキタスIDセンターは、米マサチューセッツ工科大学内に本部を置くAuto IDセンターと比較されがちだが、坂村氏はAuto IDセンターと対立するつもりは全くないとしつつも、「Auto IDセンターはチップの普及で量産化とコストダウンを推進しようとしたため、セキュリティが甘くなっている」と指摘。同センターによる数々の実証実験が中止となっている一方で、「私のセンターではセキュリティを保証するようなメカニズムを提供するよう取り組んでいる」という。
「コンピュータが大好き」という坂村氏は、これは人間ができないことをやってくれる単なる機械ではなく、人間の思考にも影響を与える道具だという。「コンピュータが人間の生活空間の状況を自動認識してくれることがユビキタスコンピューティングの本質だ。これはまだ完成しきっていないが、これからもユビキタス社会の実現に向けて貢献を続けたい」と熱い思いを語り、講演を締めくくった。
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