東京大学大学院教授の坂村健氏は9日、東京ビックサイトで開催中の「組み込みシステム開発技術展」にて基調講演を行った。TRONプロジェクトで組込みシステムに長年関わってきた坂村氏は同イベントでの常連スピーカー。イベントが毎年拡大し、講演の出席者も増えていることから、「90年代はPCへの注目が集まっていたが、最近はユビキタス製品が注目され、ユビキタスを実現する組み込みシステムへの関心が非常に高まってきたことを感じる」と述べた。
今回の講演で坂村氏がテーマとしたのは、ユビキタスコンピューティングのためのT-Engineプロジェクトについて。T-Engineとは、ユビキタス環境を構築するためのオープンなリアルタイムシステム標準開発環境。組み込みシステム用OSとして同氏はこれまでITRONを推奨しており、今後もT-Engineと同じようにTRONプロジェクトは別途進めていくというが、「ITRONが“弱い標準化”が重要なテーマだったのに対し、T-Engineでは“強い標準化”を進める」とのことだ。つまり、パソコン市場においてWindowsやIntelが市場を独占し、それが標準となっているように、組み込みの世界でもある程度の標準化を進めていくのだという。「開発プラットフォームを標準化することで、開発効率やソフトウェアの品質が向上する。そして何よりもミドルウェアの流通が進むことになる」(坂村氏)
ただ、パソコンはOSもチップも完全に標準化されてしまっているが、組み込みシステムはパソコンより細部の調整が必要となる。そのため「チップの選択は自由にした」と坂村氏。そしてOS部分のみ「ミドルウェアの流通や開発効率向上にフォーカスしたいため、標準化を進めている」という。そこで同プロジェクトでは、ITRONをベースとしたリアルタイムOS核であるT-Kernelを標準とした。
T-Engineについて語る 東京大学教授、坂村健氏 | |
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T-Kernelはダイナミックメモリアロケーションが可能で、再コンパイルするだけでソフトウェアの再利用が可能となるのが特徴。坂村氏はT-Kernelで「100年ソフトを目指す」という。「ソフトウェアの開発は大変なことだ。私が20年間TRONプロジェクトを続けてきてわかったことは、アルゴリズムがある程度固まれば作りかえなくてもよい、ということ。希望ではあるが、一度作ったものは100年使い続けたい」という。20年かけてTRONというジグソーパズルを作った坂村氏は「もうジグソーパズルを糊で固めたい」という。
このプロジェクト賛同している企業は数多い。昨年8月に22社でスタートしたが、現在では会員企業は200社を超えたという。今回のイベントでも、15社がT-Engine関連製品を展示している。そして日本企業のみならず世界的な広がりも見せており、MontaVista SoftwareがT-Engine上で動作するT-Linuxを開発することでも合意している。
坂村氏によると、高度な組み込みシステムではメモリの保護や抽象度の高いAPIが要求され、UnixおよびLinuxが使われることが多かったが、「Unixに要求されることはほとんどT-Kernelで提供することが可能だ。T-Kernelではファイル管理やメモリ管理、プロセス管理もできる。しかもUnixに欠けているリアルタイム性やスケジューリング機能などは、T-Kernelのほうが優れている」とし、組み込みシステムの標準としてふさわしいことをアピールした。
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