前回の記事に、「ベンチャーキャピタルは2010年に向けて慎重ながら楽観的に期待を膨らませている」と書いたが、その後市況は継続好転しており、さらにIPOを準備している企業の名前を多く聞くようになった。
2010年は50件以上の上場を予想するベンチャーキャピタリストもいる。これは、2009年の13件、2008年の6件からみると大きなジャンプで信じられないような数字ではあるが、2005年、2006年は年間50件以上のIPOがあったことからも不可能な数字でない。
また、IT業界では、出会い系サイトで賛否両論あるFriendFinder Networksや携帯電話アプリのMotoricityが上場に向けた申請をした。これらはまだ大きな赤字を抱えたり、売上げの成長が鈍化したりするなどネガティブな条件が多々ある中、大手投資銀行が積極的に関与していることからもやはり2010年前半はIPOラッシュが続くのかと考える。
さて、シリコンバレーのベンチャーキャピタルが2010年のテーマとして挙げるひとつが、ソーシャルメディアを利用した新しいマーケティング。Twitterのような「リアルタイム性」とFacebookのような「ソーシャル性」を利用した新しいオンラインマーケティングは、今までのものとは違う新鮮なアイデアで、新しい世界が誕生する可能性を感じる。その中から数社を紹介したい。
Blippyは、2009年末のプライベートグループへの公開で一挙に注目を集めた。次世代のマーケティングを考える上でとてもおもしろいサービスだ。同社が提供するBlippyは、クレジットカードやAmazon、iTunesなどでの購入履歴を、Twitterで自動的かつリアルタイムに公表するという単純なもの。
同社のサイトを見ると、「XXX spend $34 at Amazon.com」といったように、ユーザーの購入情報が1秒に1個程度のスピードでめまぐるしくアップロードされている。セレブ気分で自分の購入を人に見せびらかすこと、友人にどこで何を今買ったのか自動的に公表することは、10代の女性を中心に高い関心があるという。
また、有名人の購入を見て、真似するようなケースも考えられ、有名人とタイアップした広告/マーケティングもできる。同社を訪問した友人のVCによると、まだビジネスモデルは見えてこないが、流行のトレンドをはじめとした大量のデータが集まっているという。ここにあるデータを利用することにより、消費者動向/指向が分かるが、これが実はとても大きな価値になるのではないか、と考える。
Cheggもおもしろい会社である。 同社は、2005年にIowa State Universityで設立された、米国大学生向け教科書のレンタル事業のベンチャーだ。米大学の教科書代はとても高く、年間平均で900ドル以上にも上るという。今までは、学校の本屋かオンラインで中古を購入するのが安く仕入れる方法であったが、Cheggを使えば定価の7〜8割引きで教科書を利用できるということからユーザーが急増しており、1日数千万円以上の売上げを出しているとの噂もある。
この会社がおもしろいのは、顧客確保にソーシャルメディアのFacebookを上手に利用していること。Facebookの上で自分が使った教科書(特に成績のよい学生で、重要なところに蛍光ペンで線が入ると価値が上がる)を学生に自分で宣伝させ、レンタルが成立すればアフィリエイトモデルで学生にもフィーが払われるというバイラルマーケティングでユーザーを急速に広げている。
学生のほとんどがFacebookを使っていることから、ソーシャルメディアを使った友達への営業活動はとても有効。Facebookのユーザーが一般社会人、主婦など学生以外にも増えていく今、 社会人向けの各種マーケティングをソーシャルネットワーク上で展開することも十分に考えられる。ソーシャルメディア上で成功しはじめている学生向けビジネスは、ソーシャルメディアマーケティングの今後を知る上でも重要と思う。
我々の投資先で急成長するRapleafもソーシャルメディアをうまく利用した会社である。
同社はFacebookやTwitter、Myspace、Linkedinなど複数のソーシャルメディアから集めた5億人以上のEメールアドレスと、それに付随して公開されている個人情報をクローリングすることで、世界最大規模のソーシャルグラフを提供する。会員情報をはじめ大量のEメールアドレスを持つ法人に対して、そのアドレスにひも付く友人情報や趣味などさまざまな情報を提供することで、より個人向けにカスタマイズされたマーケティング機会を提供する。
Twitterに代表される「リアルタイム性」とFacebookに代表される「ソーシャル性」が広がっていく世界では、これらをプラットフォームにした、今までにないような新しいマーケティングのニーズが高まっている。そしてシリコンバレーの起業家たちは、これをビジネスチャンスととらえて、続々と新しいアイデアに挑戦している。
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