売り上げはほんのわずか、利用者なし、多額の負債を抱えているという状況でも、SpiralFrogの経営陣は、自社株式を公開するという「選択肢の検討」に余念がなかった。
同社は1年前、広告収入をベースに、楽曲を消費者に無料で提供するサービスを始めると宣言して話題をさらった。しかし、いざ事業を立ち上げようとすると、さまざまな困難があることがわかり、SpiralFrogの創設者で会長を務めるJoe Mohen氏率いる経営陣も、交代が相次いだ。そして今、投資家への約束を果たせない状況に直面したMohen氏は、SpiralFrogがいまだに事業を開始できない状態にあるものの(編集部注:SpiralFrogは、本記事執筆後の米国時間9月16日にサービスを開始している)、株式公開の希望を捨てていない。
株式非公開企業のSpiralFrogは米国時間8月31日、米証券取引委員会(SEC)に「10SB」フォームを提出し、これが公開されている。このフォームは通常、財務状況がまだ弱い、あるいは事業開始の準備が整っていない小規模企業が、株式公開(IPO)を実施しようとする場合に記入、提出するものだ。法律事務所Howard Rice Nemerovski Canady Falk & Rabkinで証券関係の弁護士を務めるMike Sullivan氏によると、こうした企業の中には、とにかく自社株式を売って金銭を得たいとの思いが強く、公開企業による買収や合併を試みるなど、他の手段を試して結局は自社株公開には至らない企業もあるという。Sullivan氏はSpiralFrogとの業務上の関連はない。
SpiralFrogの場合、10SBフォームを提出したのは、現時点までに米国あるいはイギリスで株式を公開することを投資の条件としていた資金提供者たちとの合意内容を満たすためだと、Mohen氏は説明している。この資金提供者の大半はイギリス人だ。Mohen氏は、9月3日の週に行われたCNET News.comとのインタビューで、10SBの提出により、SpiralFrogは「決算報告が公開される」企業となり、投資家の課した条件を満たすにはこれで十分なはずだ、と述べた。「これでわが社は(投資家との間の)約束を果たしたと、われわれは確信している」(Mohen氏)
絶対にないことだとまでは言わないが、実際にSpiralFrogがIPOを行おうとするとは考えにくい。そんなことをしてもウォール街で袋だたきにあうだけ、という可能性が高い。提出された10SBフォームによれば、同社は6月30日現在、たった3102ドルの売り上げしか上げていないからだ。それでもSECに10SBを提出したというのは、投資家と債権者をなだめるためにここまでの策を採らなければならなかった創設4年(そのうち最初の3年間はほとんどなりを潜めていた)の企業の苦労を、如実に物語っているとは言えるだろう。
SpiralFrogは2006年8月、楽曲無料提供といううたい文句を引っさげて音楽シーンに突如現れ、いきなり4大レコードレーベル最大手のUniversal Music Groupと楽曲提供のライセンス契約を結んだ。SpiralFrogは、広告収入で事業運営を支える形で、楽曲を無料提供し、音楽ファンを違法なファイル共有サイトから引き離したいと考えていた。
その後、同社では創設時の役員たちが会社を去り、ウェブサイトの開設も自ら課した最終期限から8カ月遅れている。
徐々に明らかになってきたのは、楽曲の無料提供は、SpiralFrogにとって非常にコストのかかる計画だという点だ。Universalとのライセンス契約を確実なものにするために、SpiralFrogは最初に220万ドルを支払った。ところがその後、さらに追加で100万ドルを支払わなければならなくなった。また、Universalとは契約したものの、他の大手レーベルとの契約はまとまっていない。Universalに問い合わせたが、コメントは得られなかった。
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