Adobe Systemsは、デジタル写真の画質を向上させデータ寿命を延ばすと同社が確信する新しい画像フォーマット、Digital Negative(DNG)を推進している。しかしそこには、深刻な課題も山積する。
今日のハイエンドカメラは、それぞれ便利な画像フォーマットを豊富に提供しているが、いずれもプロプライエタリで互換性がない。Adobeは、これらに代わるものとしてDNGフォーマットの普及を促進している。カリフォルニア州サンノゼに拠点を置く同社は、フォーマットを統一することが業界にもコンシューマーにもメリットをもたらすと信じているのだ。
目下の課題は、コンシューマーの需要を喚起し、業界の支持を獲得すること。これまでのところDNGは、ごく一部のカメラにしかサポートされておらず、プロプライエタリフォーマットの煩わしさを完全には解消できていないし、中立的な業界標準とは言えない。
しかし、Adobeに焦りは見られない。「2年前にDNGを発表したときに、普及までの道のりは長いと予想していた。既に現在、価格帯の異なる複数のカメラで、このフォーマットがネイティブサポートされている。事態はかなり順調に推移している」とAdobeのデジタルイメージング製品部門マネージャーTom Hogarty氏は語る。
DNGは、ハイエンドカメラが備える一機能の副産物として生まれた。データを独自の「RAW」フォーマットで保存する機能だ。ほとんどのカメラは、センサーがとらえたデータをJPEGフォーマットの画像に変換処理するが、RAWフォーマットは未処理の生データを記録する。RAWファイルをJPEGやTIFFといった汎用性の高いフォーマットに変換するには、ソフトウェアが必要となる。
RAW画像を生成する機能は、すべてのデジタル一眼レフカメラ、および一部のコンパクトカメラでサポートされている。写真の明暗や色調を緻密に調整できるRAW画像に、愛好家やプロは飛び付いたのだった。
「撮る写真の95%は自然の風景なので、撮影条件や光量は絶えず変化する。RAWフォーマットを使用すれば、実際の編集プロセスに入る前にさまざまな補正を行うことができる」とカナダのオンタリオ州グリムズビー在住のアマチュアカメラマン、Ray Barlow氏は語る。
一方、「Photoshop」「Photoshop Elements」「Photoshop Lightroom」などの画像編集ソフトウェアを主力製品とするAdobeのような企業にとって、RAWフォーマットは頭痛の種だ。こうした企業は、新型カメラにプロプライエタリのRAWフォーマットが採用されるたびに、それをサポートするソフトウェアを新たに開発しなければならない。
「RAWフォーマットのバベルの塔は、やがて崩壊する」と言うのは、Adobeのデジタルイメージング製品開発部門でバイスプレジデントを務めるDave Story氏だ。Story氏は、RAWフォーマットのサポートが課題となっている現在の状況には、悪化する要素しかないと言う。カメラの有効画素数の多さが画像の品質の高さにつながらないことを良しとしないコンシューマーをつなぎ止めるために、今後RAWフォーマットのサポートを導入するカメラメーカーが増えるであろうためだ。
DNG推進の理由はもう1つある。アーカイブ用の標準規格を整備すれば、各カメラメーカーが提供しているRAW画像処理ソフトウェアが今後登場するコンピュータで動作しない場合、あるいはメーカーが倒産した場合にも、RAW画像を確実に利用できる、ということだ。
「要するに今は、モデル1つごとに新しいフォーマットが1つ生まれてしまっている。5年、10年、あるいは15年たつ中で、こうしたプロプライエタリなファイルフォーマットをサポートするソフトウェアを見つけることがどれほど簡単になると言うのだろう」と、Hogarty氏は問う。「プロプライエタリということに必要性はあるのか?情報を保管する方法は、そろっていた方が良くないだろうか?」(同氏)
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