レノボ・ジャパンは12月18日、ThinkPadの熱設計をテーマとするテクノロジーブリーフィングを開催した。これまでに行われたデザイン、キーボードに続くもので、ThinkPad熱設計チームリーダーである中村聡伸氏が講演した。
中村氏は1990年からノートパソコンの熱設計に携わってきている。従来はノートパソコンの機構設計の担当者が熱設計も担当していたが、2003年頃から熱設計の重要性が認められて専門のチームが発足したという。
熱設計において重要な設計要素は「筐体や素子の温度」「冷却装置のサイズや重さ」「騒音ノイズレベル」「CPU性能」の4つであるという。ThinkPad Tシリーズは、小型であるという特徴からも、大型の冷却装置を組み込むことができない。「常にギリギリの状況で新しい技術を開発する必要のある」と、中村氏はThinkPad Tシリーズが熱対策のフラッグシップモデルであることを語った。
ThinkPadシリーズでは、大きく4種類の熱設計装置が使われてきた。90年代初めに登場したのが「ヒートパイプ」であり、その後90年代半ばから「ファン」が使われ、さらに90年代の終わりからは複数技術を組み合わせた「インテグレーション」が行れた。そして、近年登場したのが「インシュレーション」だ。
90年代初め、他社がファンによる冷却を採用する中でThinkPadにヒートパイプが採用された理由は、ファンへの信頼性の低さからだった。宇宙ステーション外皮冷却や工場内廃熱回収システムといった大型機器での利用が多かったヒートパイプだが、中村氏がノートPCへの採用を考えたのは、アイスクリームサーバとの出会いだった。
「バケツ型のアイスクリームを冷蔵庫から取り出し、大きなスプーンのようなサーバですくって食べる。中空のヒートパイプ構造のサーバが握った手の熱を順次に先端まで伝えることで、硬いアイスクリームが簡単にすくえるのを見て、これは使えると思った」(中村氏)
94年にはノートPC向けに世界初のヒートパイプ冷却システムが開発された。熱源となる素子からヒートシンクに向かっての熱伝導を行うヒートパイプが配されるシステムだ。
その後、流体軸受け技術の向上によって信頼性が確保できたファンを使用しての冷却装置を97年から開発。騒音を低減するために、飛行時の音が小さいフクロウの風切羽を参考にした「Owl Blade」によって、十分な冷却性能を持ちながらも静かなファンを実現した。これは、騒音の元となる大きな渦を打ち消すために、人為的に小さな渦をぶつけるという仕組みだ。
その後、ファンのみ、ヒートパイプのみでの冷却では効率が悪いということが判明し、それらを組み合わせたインテグレーションが登場する。ファンとヒートパイプのハイブリッドシステムや、複数の熱源素子をカバーするマルチプレートクーリングデバイスなどがこれだ。
マルチプレートクーリングデバイスでは、限られたスペースで複数の熱源素子を冷却するために、1つの冷却装置によって高さの異なる複数の素子をカバーする工夫が行われた。また、ボックス型だった冷却装置を平らな開放型にすることでキーボード下の低いスペースに収まるようにしたものや、軽いが冷却性能の低いアルミニウムと重いが冷却性能の高い銅を交互に使ったフィンなどが開発されている。
最新のインシュレーションでは、膝上に置いて利用する場合に快適な底面温度を実現するために、背面に小さな穴が開けられた。この穴によって表面温度は5度下がり、15%の風量増加にあたる効果が得られた。
「15%風量を増加させようとした場合、2ミリ厚くなるか、2db騒音が増すという形になる。冷却装置の工夫によって変わるのは、1ミリの厚さ、1gの重さ。厚くてもいい、重くてもいい、うるさくてもいいと言われれば新しい技術は誕生しない。ThinkPad Tシリーズは1ミリ薄くすることにこだわったために、つねに最新の技術を投入されてきた」(中村氏)
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