数十億ドル規模の企業が、チップ事業に参入する。その企業とは、米Microsoftだ。
情報筋によるとMicrosoftは、2005年発売予定のXboxゲームコンソールの次期バージョン、「Xbox Next」(仮称)のプロセッサ設計に、これまでよりも積極的に参加するという。比較的標準的なパーツをよりカスタマイズされたプロセッサに切り替えることで、同社はXboxをより高度に最適化できるようになる。また、プロセッサ設計に密接に関わることにより、Microsoftには全く新しい市場への足掛かりを得られる可能性も生まれてくる。
「Microsoftが、Xboxに自らのDNAをたくさん入れたがっているのは明らかだ」と調査会社The Envisioneering Groupのディレクター、Richard Dohertyは言う。その理由の1つはハッキング事件だ。「同社にとってはもちろん、Xboxをただのパソコンに改造できるような状況は望ましくない」(Doherty)。それに、同社が設計プロセスの最前線に関われば、チップの性能をさらによく引き出せることにもなる。
Microsoftは、初代Xboxでは米IntelのCPUと米Nvidiaのグラフィックプロセッサを採用しているが、これらのチップは、両社が一般的なパソコン市場で販売しているのとほぼ同じものだ。
同社は、Xbox Nextの開発にあたり、加ATI Technologiesのグラフィック技術や、米IBMのプロセッサ技術、そして台湾のSilicon Integrated Systems(SiS)のチップセット技術に関するライセンスを取得している。情報筋によると、同社はこうした企業と共同でチップのカスタマイズ化に取り組むという。
こうした提携は、PlayStationの次期バージョンで採用になるといわれるCellプロセッサの開発を、IBMや東芝と共同で進めるソニーのやり方とよく似ていると、アナリストや情報筋は指摘する。
Microsoftによる各社との提携を詳しく知る人たちの話では、同社が、1社もしくは複数の半導体製造メーカー(ファウンドリー)と契約を結び、新Xbox用に同社が設計したチップを生産させる可能性が高いという。「我が社との契約のなかには、生産に関する部分はまだ含まれていない。生産をどうするかは、彼らの方針次第だ」とIBMの関係者は述べている。
Microsoftは先週、IBMおよびSiSとの契約を発表したが、この計画の詳細についてはそれ以上のコメントを拒否している。Dohertyによると、Microsoft会長のBill Gatesは、2004年1月にラスベガスで開催される「Consumer Electronics Show」(CES)で、Xboxに関する計画について話をすると見られているという。
チップをカスタマイズするとなると、それに伴うリスクが生じるが、それでもMicrosoftには、Xboxの性能を最適化できるというメリットが手に入る。同社はまた、179ドルで売られているXboxコンソールを、一通りの機能が揃ったコンピュータに改造してしまうXboxハッカーらとの戦いも続けてきている。
ある意味で、「Microsoftは工場を持たない半導体設計会社になろうとしている」と、The Microprocessor Report誌のチーフエディター、Peter Glaskowskyは言う。自社のチップ組立工場をもたないこうした企業は、プロセッサの設計は行うものの、生産は製造会社に外注している。またこれらの企業はよく、他社とライセンス契約を結び、チップ設計に関する専門知識や知的所有権で保護された技術を手に入れている。Glaskowskyによると、Microsoftは初代Xboxを開発した際、チップ設計については「ほとんどなにもしなかった」という。
商業的な観点から見れば、Microsoftは、自社が主な顧客であるという点で、米Transmetaなどチップ工場を持たない他の企業とは性質が異なるだろう。だが、やはり同社も、自ら設計したチップを多数の製品に使い回すことで、開発にかかった投資を回収しようとする可能性があり、これはソニーがCellを使って計画しているのとよく似た動きである。
Glaskowskyは、コンピュータの技術を家電と合体させた製品に言及し、「Microsoftでは、Xbox用にライセンスした技術を利用して、(パソコンと家電との)ハイブリッドシステムを創り出すことも、原則的には可能だ」と述べている。
これらのさまざまなチップに関する契約が今後どうなるのかについては、現時点ではまだ詳細ははっきりしていない。しかし、Microsoftと提携している半導体メーカーの一部は、この提携について、通常のチップメーカーとハードウェアメーカーとの契約の枠には当てはまらないものだと話している。
「(Microsoftとの契約)は、我が社の通常の契約とは異なっている。これはSiSに技術開発を求めるものだ」とSISの事業開発部門ディレクター、Brad Walkerは述べている。同社は通常、独自にチップセットを開発してから、顧客を探すというやり方を取っている。
ATIの広報担当ディレクター、Chris Evendenの話では、ATIとMicrosoftとの契約は、ATIがゲームキューブのグラフィック機能に関して任天堂と結んだ提携に類似しているという。ATIは任天堂のために、カスタマイズしたチップを設計し、任天堂はその設計を元に、別の製造パートナーと契約した。ATIは、ゲームキューブのコンソールの販売1台ごとにロイヤルティを受け取るほか、任天堂のゲームソフトの売上に応じてもロイヤルティが入る契約になっている。
ATIはMicrosoftに、「将来のXboxサービスおよび製品」のための、カスタマイズしたグラフィック技術を提供し、その代わりにロイヤルティを受け取る。ロイヤルティ契約は、ATIでは例外的なことだ。ATIは、チップ販売から収入の大半を得ている。またNvidiaでも、Xboxからの売上のほとんどは、チップの販売によるものだった。
大きな関心を集める疑問の1つは、マイクロソフトが設計に係わるこれらのチップが、IBM、SiS、ATIなどがそれぞれオープン市場で販売する予定の半導体とどう異なるかという点だ。
IBMの関係者は、Microsoftが同社のPowerPC技術に目を付けていることを認めた。PowerPCは米Appleがつくるコンピュータの基底にあるアーキテクチャーだ。その技術コンセプトはまた、Cellプロセッサの基礎にもなるはずだが、ちなみにCellにはさまざまなタスクを扱う複数のチップコアが含まれることになっている。
しかし、ソニー、東芝、IBMの3社は2001年以来Cellの開発に取り組んできており、また完成品は2005年にならないと登場してこない。Dohertyの推測では、Microsoftが採用を目指しているIBMの技術を利用したプロセッサは、Cellとそれほど違わないものの、Macで使われているG5チップとは異なるものになるのではないかという。
「他社のつくったものを、そっくりそのまま真似するようなことは、絶対にしない」(Doherty)
この記事は海外CNET Networks発のニュースをCNET Japanが日本向けに編集したものです。
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