ウェブの生みの親で現在はWorld Wide Web Consortium(W3C)のディレクターを務めるTim Berners-Lee氏は米国時間7月18日、米国人工知能学会(AAAI)が主催する会議で基調講演を行い、人工知能とセマンティックウェブについて語った。
講演の中でBerners-Lee氏は、ウェブの次の段階は、データを人工知能にもアクセス可能にし、検索、分析させることだと指摘した。さらに同氏はマシンが簡単に読み取れるデータが互いにリンク付けされたウェブであるセマンティックウェブに言及し、これが導入されれば、さらに多くの知識が、もとの情報を作成、公開した人たちとは別の人や組織に、当初は予想もしなかったような用途で使われると説明した。
Berners-Lee氏はこれまでにもHTMLだけでなくセマンティック言語を使うようウェブ開発者に提唱してきたが、今回の講演の内容はその件にも及んだ。Berners-Lee氏は、情報の特定に永続的なURI(Uniform Resource Identifier)とRDF(Resource Description Framework)を使うことの重要性を強調し、こういった仕様を一貫して使用すれば、セマンティックウェブは、World Wide Webが本来目指していた知識の共有を促す性質を保持できるだろうと述べた。
しかし、講演の終わりになって突然場の流れが変わった。Googleの検索部門のディレクターでAAAIの会員でもあるPeter Norvig氏が、質疑応答の時間になると率先してマイクを持ち、いくつかの問題点を提起したのだ。
「わたしはこれまで『なぜセマンティックウェブに反対するのか』という質問をたくさん受けた。わたしはセマンティックウェブそのものに反対してはいない。だが、Googleから見ると克服しなければならない問題がいくつかある。その第1点は、能力不足だ」とNorvig氏は話し始めた。ただしNorvig氏によれば、能力不足と思われるのは Berners-Lee氏やその周辺の人たちのことではなく、一般ユーザーのことだという。
「わたしたちは、サーバの設定やHTMLの記述ができないウェブマスターを何百万人も相手にしている。Berners-Lee氏の言う次の段階に進むのは、彼らにとって難しいだろう。2番目の問題は競争だ。商用プロバイダの中には「リーダーはわれわれなのになぜ標準化する必要があるのだ」と主張する会社もある。3番目の問題は偽装だ。サイトを検索結果の上位に表示されるよう偽装し、ほかの物を探している人たちにViagraを売りつけようと企む人たちの対処に、わたしたちは毎日追われている。セマンティックウェブの導入により人の目が届かない部分が増えると、かえって偽装が簡単になるのではという心配がある」とNorvig氏は問題提起した。
Berners-Lee氏は「作成者がデータを保持するのならそれでもいいが、そこに誰かが現れて『われわれのエンタープライズシステムをご利用いただければ、あなたのデータをすべてRDFに変換します。われわれは最良のデータベースを持っているからこそ、このようなお願いをするのです』と申し出てくる。この話に乗る方がはるかにデータを活用できる」と述べた。同氏はさらに、自らの姿勢を明らかにするために書店を例に挙げ、当初、在庫と仕入価格の情報を非公開にしていた書店も、他の書店が公開するとみな同じように公開し始めたと説明した。
Berners-Lee氏は、インターネット上の偽装を問題視するNorvig氏の意見に同調したが、セマンティックウェブの概念には、情報の中身だけではなく、その作成者を特定し、なぜその情報が信頼に値するのかを判断できる仕様も含まれていると主張した。
この記事は海外CNET Networks発のニュースを編集部が日本向けに編集したものです。海外CNET Networksの記事へ
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス