ヤフーが大転換する「ソーシャルメディア」の正体--第一歩はAPIの公開 - (page 3)

別井貴志(編集部)2005年11月18日 23時35分

 ヤフーで提供しているコンテンツというのは、基本的にはコンテンツプロバイダーから購入しているもの(ヘッドコンテンツ)がほとんどだ。「いろんなところで買ってきて見せる。これはいつまで通用するのだろうという議論がある。ヘッドコンテンツを出すというのも重要な使命だが、それだけでは駄目で、ヘッドの下にテールコンテンツ(個人ブログなどアクセス数が少ないニッチなサイトのコンテンツやサービスの集合体)も一緒に出さなければいけないのではないか」と、井上氏は語った。

 これまでのヤフーのビジネスは、ヤフーの中にユーザーを囲い込んでそのユーザーたちに広告などを見せてお金に変えるという発想だった。それを、「ヤフーの外にいってもいいからその先でもちょっとヤフーが見えているように変わる。いままでは、どうすれば自分たちのサイトに来てくれるか、そこでお金をいかに落とすかということだったが、そこからどうやったら外へトラフィックを流せるかという発想に転換する」と井上氏は説明した。

 井上氏は、これを「StickinessからSyndicationへの転換」と表現した。Web2.0の概念にも入っているが、ようするに「自分のサイトへ来てもらってどうするか」という考え方から、「どうやったら自分たちが持っているコンテンツや広告をみんなに使ってもらえるか」という考え方への転換をいう。

 そして、これを実行するには、サービスやコンテンツのAPIやRSSという技術の仕組みをプラットフォーム化して利用してもらうのが必須だとヤフーは考えた。収益化(Monetization)も同じで、いままではヤフーという大きな広告媒体でお金を稼ぐことがメインになっていたが、井上氏は、「今後は個人のブログなど『スモールパブリッシャー』までを含めて収益化していくことが重要になる」とした。そして、これを現実化するには、アフィリエイトというのが欠かせない。

 こうした、技術プラットフォームやアフィリエイトネットワークをベースにスモールパブリッシャーを統一した仕組みを「ヤフーパブリッシャーネットワーク」と呼ぶ。日本ではまだこのネットワークを構築していないが、米国ではクローズドベータ版の位置づけで、限定された数千規模のユーザーに試してもらっている。

 ヤフーパブリッシャーネットワークでは、ヤフーのコンテンツや広告を簡単にユーザーのサイト(スモールパブリッシャーのサイト)に貼り付けられる仕組みを提供している。それによって、売り上げがあがった場合には、スモールパブリッシャーとヤフーでシェアするモデルだ。

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APIを提供することで、スモールパブリッシャーがヘッドからテールまであるヤフーのコンテンツや広告を利用すると、ヤフーからスモールパブリッシャーに大量のトラフィックが流れる。逆にスモールパブリッシャー側では、トラックバックなどで「ヤフーにこんなテールコンテンツがある」ということを知らせてもらえる。そこで、トラフィックが循環するようになる。

 井上氏は、「ヤフーパブリッシャーネットワークを開始してわかったのは、ブログやウェブサイトを作成しているユーザーで、ヤフーの天気だけ、ニュースだけを表示させたいというユーザーは思ったよりも多い。不動産の情報を掲載しているユーザーならヤフーの不動産を表示するといった具合に、コンテンツはユーザー自身のサイトに合わせればいいし、ヤフーのコンテンツを掲載すればそのユーザーのサイトの価値も向上し、ひいてはヤフーへのトラフィックにもつながる」と説明した。そして、コンテンツや広告を表示させる仕組みを提供すれば、トラフィックや売り上げのレポートをユーザーに提供することも必要になってくる。

 これについて井上氏は、「繰り返しになるが、以前のヤフーは外部にコンテンツやサービスを出してしまうことに抵抗感があったので、なかなかできなかった。それを実行するとなるとビジネスのモデルも変わってくるので、よりユーザーに密着したような指標も必要になってくる」と見ている。ユーザーの利用や広告主に対する効果測定としてこれまで利用してきたページビューやユニークユーザーといった指標から、滞在時間や顧客満足度という指標にシフトしていく。

 顧客満足度について井上氏は、「ユーザーが同じサービスにどれだけ頻繁に帰ってくるか(利用するか)がいい指標だと考え、これはある程度数値化できる」と語った。また、今後Ajaxなどユーザーインターフェースが次々とリッチになっていけば、明示的なURLは変わらないものの、その同じ1つのURLで見ているページの裏側でHTTP通信が行われて、コンテンツが変化するようになっていく。こうした点については「画面遷移ではなくアプリケーションを使っている感覚に近く、そうなったときのページビューには何の意味があるのか。ページビューで売ってきた広告ビジネスと今度は結びつかなくなる。リッチコンテンツ時代に適した広告モデルも考えていかなくてはならない」とし、まだまだ具体的な戦略を煮詰めるには時間がかかりそうだ。

 そのせいか、井上氏は「日本でもヤフーパブリッシャーネットワークを実行に移すが、その時期はまだ検討中だ」としている。

 しかし、その第一歩を日本でも11月末に踏み出す。「ソーシャルメディア化するにはAPIの提供は必須だ」として、いろんなかたちでヤフーを使ってもらえるように「Yahoo!デベロッパーネットワーク」というサイトを新規に開設する予定だ。最初はウェブ検索、画像検索、動画検索のAPIをこのサイトを通じて提供する。

 Yahoo! IDとは別に専用のIDを取得すれば誰でもものAPIを利用できるようにする。「APIのおもしろい使い方をヤフーでは考えつかないので公開する」と井上氏は笑うが、「『こんなおもしろいAPIの利用法や使い方を考えました』と言ってもらえれば、このサイトでどんどん取り上げていく。APIを提供するだけではなく、グループ機能も用意するので活発にディスカッションしてもらいたい」と希望している。また、APIは今後も積極的に公開していく予定で、コンテンツだけでなく認証のAPI、課金のAPIなど、いろいろなバリエーションが考えられる。

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11月末に開設予定の「Yahoo!デベロッパーネットワーク」の開発中画面。このサイトでさまざまなAPIを公開していく

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