IPv6推進の鍵として期待される情報家電だが、その取り組みはどこまで進んでいるのか。また、どのような課題が存在しているのだろうか。都内で2月16日に開催された「IPv6ビジネスサミット2004」において行われた「情報家電とネットワーク」と題したセッションでは、このような問題について各社の講演が行われた。
パネリストにはマイクロソフト プロダクトディベロップメント リミテッド ウィンドウズ開発統括部 戦略プラットフォームグループシニアマネージャの及川卓也氏、Samsung Electronics Digital Media R&D Center Principal ManagerのYoungKeun Kim氏、KDDI技術統轄本部IPネットワーク部課長の丸田徹氏、東芝 研究開発センター 通信プラットフォームラボラトリー研究主務の村井信哉氏が登場し、松下電器産業eネット事業本部ネットワークエンジニアリングセンター所長の吉田純氏がコーディネータを務めた。
ブロードバンドの普及に伴って、ネットワークにつながる情報家電が各社から少しずつ登場している。専用サイトが閲覧できる松下電器産業のTナビ対応テレビや、携帯電話から番組予約ができるソニーのコクーンなどだ。
ネットワーク情報家電に対しては、ユーザーのニーズも高い。松下電器産業が行った調査では73%の人がネットワーク情報家電を使ってみたいと答えたという。用途としては、自宅の外からPCや携帯電話などを使って宅内の機器を遠隔操作するニーズが最も高かったとのことだ。
「情報家電の課題をIPv6が解決する」
松下電器産業eネット事業本部ネットワークエンジニアリングセンター所長の吉田純氏
ただし、ネットワーク情報家電が普及するためにはいくつかの課題がある。PCと異なり、家電では専門知識のない人でも簡単に使える必要があるため、誰でも簡単に設定できるものでなければならない。同時に、セキュリティが確保されている必要もある。
これらの問題を解決するのがIPv6だとパネリストたちは口をそろえる。なかでもIPv6の利点は「NAT(Network Address Translation)越えが簡単にできることだ」という。IPv4ではユーザーに割り当てられるアドレス数に限りがあることから、ルータの機能を利用して家庭内の機器にはプライベートアドレスが割り当てられている。しかし、プライベートアドレスでは別のネットワークのプライベートアドレスと直接接続することができないため、テレビ電話のように機器同士が直接接続する場合、非常に複雑な設定が必要だった。これをNAT越え問題という。しかしIPv6であれば各機器にグローバルアドレスを割り当てることができるため、接続設定が簡単に行えるのだ。
各社はIPv6に関して、すでにさまざまな実験を進めている。例えば東芝は、2003年12月から2004年2月まで高齢者を対象に、IPv6を利用した地域情報インフラの実証実験を行っている。この実験ではテレビ電話に対するニーズが高く、80%の人がテレビ電話を利用し、90%の人が実験終了後も利用したいと答えたという。
またKDDIでは、2003年6月からADSL回線を利用したIPv6接続実験「DION ADSL IPv6実証実験」を行っている。KDDIの丸田氏によると、遠隔操作が好評だったものの、テレビ電話などのPtoPを利用したアプリケーションでは、IPv4環境にある相手側の設定に関して多くの問い合わせが寄せられたという。「IPv6では簡単にできることが、IPv4では難しいことがわかった」(丸田氏)
またマイクロソフトはグループ内で音楽ファイルなどを共有できるPtoP型のインスタントメッセージングサービス「Threedegrees」のベータ版を公開している。
IPv6の課題は年内に解決
講演ではIPv6の課題についても紹介された。KDDIの丸田氏によると、現在提供されている回線サービスはどれも試験サービスであること、現在の環境ではVoIPを利用するのが難しいこと、そして利用時にはIPv6ルータを別途購入しなくてはいけないことが問題として挙げられるという。ただし丸田氏は「これらの問題はいずれも年内に解決できるだろう」と話す。
最後に松下電器の吉田氏は「2004年度はいろいろなサービスを立ち上げていく時期ではないか。その兆しもニーズも見えてきた」と話し、ISPが低価格な回線の提供を、メーカーは対応機器の開発・販売を、そしてソフトウェアベンダーがアプリケーションの提供を一斉に開始することでともに市場を立ち上げようと述べて講演を締めくくった。
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