今からおよそ1年半前、MicrosoftはTammy Savageに、インターネットと共に育った10代から20代の若者向けソフトウェアの開発を手掛ける新たな部門の設立を命じた。その新設部門の名はNetGenという。
現在MicrosoftのNetGen部門ゼネラルマネジャーを務める33歳のTammy Savageは、新部門を立ち上げてからすぐ、13〜24歳のグループとそれより上のグループでは、人との付き合い方、情報の探し方、さらに品物の売買方法までもが全く異なることに気がついた。彼らは地域のショッピングモールにいるのと同じ感覚で、チャットルームで気軽にネット上の友人と知り合い、また品物を購入する際も、近所の中古品店やディスカウントストアには行かず、少しでも有利な取引をするためにeBayなどのオークションサイトを探索して回る。
Savageが率いるNetGen部門は大学を卒業したばかりの12人で構成されている。彼らは、ターゲットとする13〜24歳のグループの社会的習慣や、テクノロジーやインターネットが彼らのライフスタイルの中でどのような役割を果たしているかについて実態調査に乗り出した。NetGen部門は今週、同部門初の製品となるThreedegreesのベータ版の配布を開始した。Threedegreesは全く新しいインスタントメッセージング(IM)製品で、ユーザーはピア・ツー・ピア(PtoP)型のグループを作り、その中で相互交流を図ることができる。この製品は、Microsoftがネット世代(Net Generation)についてどの程度理解しているかを測る最初の試金石となる。Threedegreesの主な特徴としては、最大10人のグループメンバー全員に送信可能なIM機能のほか、グループ全体にアニメーションを送信できるWinks、メンバー全員が同時に同じ音楽を聴くことができるMusicmix、他のメンバーとの写真共有機能などが挙げられる。今回のThreedegreesの計画が成功すれば、Microsoftのネット世代向けソフトの開発方法は大きく変わる可能性がある。
CNET News.comはSavageに、NetGen部門とThreedegreesの開発について話を聞いた。
――MicrosoftにNetGen部門が設立されてどのくらい経ちますか?
現在私の下で働いているメンバーは、働き始めておよそ1年半になります。彼らは全員、大学卒業直後から働き始めました。私自身は過去3年間、様々な形でこのプロジェクトに携わってきています。開発する製品を具体化し始めたのが約1年半前で、その頃からチーム全体が「製品を開発し出荷するんだ」という雰囲気になりました。
――NetGen部門の人数は?
現在12人が所属しています。
――現在NetGen部門はThreedegreesの発売に向け準備を進めていますが、この製品を皮切りに今後も数多くの製品を開発していくのですか?
我々にとってThreedegreesはあくまで出発点にすぎません。Threedegreesをベースとした事業展開については明確に持っており、Threedegreesの発売はその第一歩です。
――この製品を開発した理由は何ですか?
Threedegreesの背後にある考えは、我々が抱くこの製品の顧客像が基礎となっています。我々の認識では、基本的にこの製品の顧客は単にコミュニケーションをとるだけではなく、何らかのグループ活動に参加したいと考えています。彼らはグループでいっしょに何かを行ったり、成し遂げたいと考えており、新たな出会いを強く求めています。そのため我々は、彼らがインターネット上で、例えば私には決して真似できない方法で新たな出会いを見つけられるような様々な手段を開発したいと考えました。彼らは友人として互いを認め合う方法を持っており、信用できる人とできない人を明確に区別しています。一度彼らの信用を失えば再び取り戻すのはほぼ不可能でしょう。
インターネットと共に育った彼らはそれらの方法を使って、インターネットを知らずに育った世代の人間では真似のできない方法で新たな出会いを見つけています。そしてそれこそが我々の製品の顧客たちが求めている経験なのです。それを実現するためには、グループを作り、気の合う仲間が中心となって様々な活動を行えるプラットフォームが必要です。人々の生活において最も重要なのは交友関係、すなわち気の合う仲間だと我々は考えています。そしてコンピューティングエクスペリエンスにもこれが反映されるべきだと考えています。人々がコンピューティングエクスペリエンスの中心にいるべきであり、その逆ではありません。インターネットは様々な活動、すなわち人々が成し遂げたいと考えていることを、人間を中心とした方法で行うものです。その点が重要です。
――Threedegreesユーザーの年齢層はどのくらいと予想していますか?
NetGen部門がターゲットとしているのは13〜24歳の若い世代ですが、Threedegreesは幅広い年齢層に受け入れられるでしょう。少なくともIMを利用している人には興味を持ってもらえると考えています。
――Threedegreesという名前の由来は何ですか?この名前を聞くと"One Degree of Separation"と銘打ったMicrosoftの企業向け広告キャンペーンを思い出しますが。
実はThreedegreesという名称は「six degrees of separation」(知り合いを6人たどると、地球上の全ての人につながるという理論)に由来しています。つまり今おっしゃった名前の由来はとても正解に近いということですね。我々のチームはごく小規模な上に全くまとまっていません。また、ブランド形成のために外に出て100万ドルを投じるようなこともしていません。我々は基本的に何もせず一日中座り込んで、「なぜこれが我々にとって意味のあることなのか」と自問自答しています。だからこそ、これは我々にとって意味のあることだと言えるのです。このベータ版はチームの答えであり、確信を持っているからこそ我々はこれに取り組んでいるのです。
――Threedegrees開発への取り組み方は、他のMicrosoft製品を開発する場合とどのように違うのでしょう?またその取り組み方は今後の製品開発にどのように生かされると考えますか?
我々は事前に顧客を理解することに相当の時間を費やし、その後に試作品の製作を開始しました。最終的には実際に技術を開発する段階まで行きついたわけですが、技術の開発方法を考える作業は最後に行いました。なぜなら、それには多くの困難が伴うからです。しかし苦労した結果、顧客が何を求めているのか、エンドユーザーの体験とはどういうものか、さらに現段階において技術的に何が可能で何が不可能かを明確に把握することができました。
――歴史的に見て、技術は技術発展のために開発され、人々が購入するだろうという期待の下に発売されてきたように思えるのですが。
確かにこの業界ではそのような例が数多く存在します。しかし一方、顧客の視点から製品開発が開始された例も数多く存在します。この製品は顧客からスタートしました。我々が下す全ての決定は顧客に関連するものです。現在ベータ版を発表するのは、申し分のない適切な製品を作るために顧客からのフィードバックを必要としているからなのです。
誤解のないように付け加えますが、 Microsoft自体、顧客を理解したり顧客からのフィードバックを製品開発に生かすことを得意としています。ただ、このプロジェクトの全く新しい点は、ターゲットとしている顧客層がこれまでと違うということです。
――私が聞きたかったのはまさにそこです。この製品開発が他と違う点はどこにありますか?また、インターネットと共に育った世代が顧客になった今、その開発手法は他の製品にいかなる影響を与えるのでしょう?
我々の研究結果は通信やエンターテインメント部門にのみ応用されるわけではないと思います。ネット世代の顧客を理解し、彼らがインターネットをどう利用するかについての知ることは、未来だけでなく現在においても、Microsoftが手掛ける全ての事業に役立つものです。ネット世代は今や社会の労働力となっており、決して将来の顧客ではありません。社内の1グループとして行うべき重要事項のひとつは、顧客について研究し、それをMicrosoft全体に伝えることです。我々は多くの仕事を他の製品開発グループと共同で行っています。そのため我々の影響力は、これから公開するベータ版の影響力よりも幅広いものとなります。
――ThreedegreesではWindows Messengerなど、すでにWindows XPに含まれている機能がどの程度利用されるのですか。
ThreedegreesはMSN Messengerを基にしており、利用するためにはMSN Messenger 5が必要になります。Threedegreesは社内の数人から、「ある意味で極端なインスタントメッセージングだ」と言われてきました。ネット世代の人々が本当に引きつけられるのはコミュニケーションツールだと我々は考えています。彼らはIMを使って交流を図っています。Threedegreesはそのような経験を基に作られています。
――今回のベータ版発表の目的は?
今回のベータ版発表はあくまで顧客の研究が目的です。Threedegreesは今まで誰も体験したことのない全く新しい製品であり、我々はこれを多くの顧客に使ってもらいたいと考えています。彼らに実際に使ってもらい、その感想や気に入った点、さらに変更してもらいたい点などの情報を収集したいのです。我々は顧客との対話を今後も、様々な方法で続けていきたいと考えています。
――Threedegreesに搭載されている機能はどのような基準で選んだのですか?
初期段階で重要だったのは、グループを作り活動を行ってもらうことでした。Winksは部屋の向こう側にいる人に「ウインク」をするというものです。もちろんこれは全てネット上で行うのですが、ウインクして相手の気を引くものです。また写真を送信したり、グループでIMをしたり、友人同士で音楽を聴いたりすることもできます。我々が目指したのは顧客にとって最優先事項である、友達と時間を共有し楽しむという希望に添うことです。音楽は楽しい時間の基本にありますが、他にも様々なタイプの活動機会の提供が考えられます。アイデアは尽きません。現時点ではこれらのアイデアに優先順位をつけています。写真を送信する機能は、顧客がどのように写真を共有し、その経験にどのような優先順位をつけるかを理解する上で役立ちます。
――グループIMを提供することはどれほど珍しいことなのですか?
私はそれほど珍しいことだとは考えていません。Threedegreesが通常と異なる点は、最高10人まで参加できるという点です。グループは常に存在するので、IMを立ち上げれば自動的に10人全員が会話に参加することになります。これは驚くべきことではなく、必要条件のひとつに過ぎないのです。IMはグループ活動を行う上での基礎となるもので、他の機能はIMから広がっていきます。
――一度に複数のグループに参加することは可能ですか?
可能です。
――つまり、例えば10人で構成されるグループを3つ作って、その3つのグループと同時に会話をすることも可能ということですか
可能です。実際、チームのメンバーが現在社内で使用していますが、彼らはデスクトップ上に12のグループを作り、それぞれのグループで違うことをしています。ただ、1つだけ明らかにしておきたいのは、一度に開ける「音楽会」は1つだけだということです。開発中、我々はパーティーを参考にしました。例えばディナーパーティーをモデルにするとします。私も33歳なので、それがどういうものか分かっています。あなたがディナーテーブルに座らせることができる人数、それがMusicmixに参加できる人数です。誰かが自分で聴いた新しいバンドの新譜CDを持ってくるというのは珍しいことではありません。友人を介して新しい音楽について知るというのはよくあることです。実際、音楽を知るきっかけとして最も多いのが友人の勧めです。誰かが持ってきたCDを借りて、パーティー終了後に自宅に持ち帰る。それこそまさに我々が使ったモデルです。プレイリストには最大60曲までしか入れられません。どの家庭にもある6枚CDチェンジャーと同じです。
――メンバー全員で同じ音楽を聴く際に、使用できるのはWindows Media Audioだけですか?それとも、MP3など他のフォーマットも使用可能なのでしょうか。
もう少し正確に言えば、実際にグループ全員でいっしょに音楽を聴くということです。Musicmixでは MP3、WMA、WAVなどの音楽ファイルを持ちこんで、全員で聴くことができます。
――社内テストでThreedegreesがグループ活動以外の目的に使用されたことはありますか?Threedegreesは、共同で何かを行う際に便利なアプリケーションのように思えるのですが。
世間の人々は、これがコミュニケーションやエンターテインメント分野以外の用途にも利用できるとすぐにわかるでしょう。小規模のグループで働いている人は、様々な方法を試したいと思うはずです。その意味で可能性はあります。
――ThreedegreesはPtoP型のアプリケーションなのですか?
ThreedegreesはMicrosoft Windows XP Peer-to-Peer Updateを基盤にしています。利用するためには他に、Windows XP OSを搭載し、Windows XP Service Pack 1環境であることが必要です。また、MSN Messenger 5とブロードバンド接続が必要になります。
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