2009年8月と11月の2回にわたってIR(投資家向け広報)コミュニケーションに信じられない勢いで浸透するツイッターの実態をリポートし、世界中のIR関係者から高い評価を集めた米有力サイトコンサルティング会社、Q4ウェブシステムズが、この7月末、北米と欧州、そしてオーストラリアやブラジルなどの公開企業を対象に「IRにおける公開企業のソーシャルメディア活用」と題する96ページの調査結果を発表した。
ソーシャルメディアを利用したIR活動といえば、プレスリリースや、四半期のカンファレンスコール(電話会議)、といったイベント予告を掲載し、自社のウェブサイトやIRサイトにリンクを張るツイッターを思い浮かべる向きも多いだろう。今回の調査は、ツイッターはもちろん、フェースブック、ユーチューブ、スライドシェアをチェックした。
その結果、プレスリリースやイベント予告に加えて、決算発表や業界ニュース、アナリスト向け説明会や株主総会などに関連したコンテンツ、またCEO(最高経営責任者)/CFO(最高財務責任者)とのインタビューの動画など、多岐にわたるIR関連の掲載がソーシャルメディアで急増しているトレンドが確認された。テクノロジー企業大手のシスコやデル、有力農業関連のモンサントのように自社サイトに単独のソーシャルメディアのページを用意する企業も増えている。
今回の調査はツイッターにアカウントをもつ362社が対象である。このうち235社(65%)がIR関連の情報を掲載している。ツイッターを利用する企業のうち3分の2がIR活動でもツイッターを利用していることになる。同様に、この362社のうちフェースブックにアカウントをもっている企業は278社(77%)で、134社(37%)がIR関連の情報をフェースブックに記載している。4割に迫る数字だ。
また、ユーチューブに自社のオフィシャル・アカウントがある企業は203社(56%)に達し、105社(29%)がIR関連の情報をユーチューブに提供している。約3割である。
他方、パワーポイント投稿サイトのスライドシェアにオフィシャル・アカウン トのある企業は40社(10%)にすぎない。ただし、その掲載情報はどれもIR関連であった。プレゼンで一般的となったパワーポイント資料の投稿はまだまだの状態だ。
また、企業ブログのサイトをもつ企業は130社(36%)、IR関連のブログも36社(10%)にとどまった。こうしてみると、ソーシャルメディアを利用するIRはツイッター、第2にフェースブックが先行する一方で、ブログやスライドシェアへの取り組みは今ひとつである。
IRにソーシャルメディアを利用する企業を業種別に見ると断然、テクノロジー業界が多い。ツイッターをはじめ、ソーシャルメディアのどのツールでも、テクノロジー業界は突出している。次はサービスと資源関連。この2つの業界ともスライドシェアの利用が目立つのは偶然だろうか――。そして、消費財、薬品・ヘルスケアの順番である。消費財ではツイッターとユーチューブの利用に力を入れている。
調査リポートは、ソーシャルメディアを使った本格的な投資家と企業との対話はまだまだ限られているが、予想を超えるツイッターの進展もあり、各社ともソーシャルメディアをIR活動に取り込む動きに注力するだろうと今後の展開を予想している。
ある日本企業のIR担当者がつぶやいた。「このリポートで報告される各社のソーシャルメディアに対する取り組みは、まるで違う世界の現象のようだ。いったい、どこから手をつけたらいいのだろうか」。それは、この6月上旬、世界各地から1300人のIR関係者が参加した全米IR協会(NIRI)の年次大会で、聞こえてきた同じ“つぶやき”だった。
◇ライタプロフィール
米山 徹幸(よねやま てつゆき)
IRウォッチャー、埼玉学園大学教授。主な著書に「大買収時代の企業情報」(朝日新聞社)など。寄稿に「〜トンプソン元NIRI理事長が語る〜 IRはコーポレート・コミュニケーションに向かう」(宣伝会議「広報会議」2010年10月号)など
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