そこでCubeSatユニットでは、重さが1〜10kgの超小型衛星(ナノサット)技術を使うことで、宇宙参入の敷居を下げ、新しい宇宙利用の開拓と、「アイデアを宇宙ミッションにつなげる」(同)ためのプロセスを整備することを狙っている。具体的には、(1)超小型衛星打ち上げの際の契約や手続き、周波数獲得でのプロセスや留意点を明確化、明文化、(2)ナノサットの開発を通じて、基盤技術を獲得、(3)法的問題などを調査・検討して「安全で効率的な衛星プロジェクト」のプロセス確立、(4)ナノサットを利用する潜在顧客の開拓――などをしようというものだ。
中須賀氏の説明によれば、重さ50〜200kgの小型衛星(マイクロサット、開発費は5〜20億円)は現在、「英国や米国、韓国などの企業によって熾烈な競争が繰り広げられている」という。そこでCubeSatユニットでは、マイクロサットよりも小さいナノサットをターゲットにしている。「ナノサットは1〜10kgであり、開発と打ち上げまでも含めたプロジェクト全体のコストは1億円までにおさめられる」(同)ことで企業は投資しやすくなる。大学にとってもナノサットで試行錯誤を繰り返すことができるという。
中須賀氏が中心となって進めて打ち上げた、手作り衛星CubeSatについて「同じような大きさの衛星が同時に8機打ち上げられたが、日本の2機だけが成功している」(同)ことから、「ナノサットは日本が世界をリードできる分野」(同)している。
中須賀研究室が2005年10月にロシアのロケットを利用して打ち上げたCubeSat2号機である「XI-V」(サイ・ファイブ)は、小型カメラを搭載、地球を撮影した画像をPCや携帯電話に無料で配信するサービス「さいめーる」を展開している。現在、さいめーるには約2000人が登録しているという。この衛星では、「アマチュア無線の周波数帯を使用していることから、商業利用はできなかったが、ビジネスとしての可能性は明確」と中須賀氏は期待している。
またXI-Vは、JAXAが開発した「CIGS」と呼ばれる新型太陽電池を搭載、CIGSが衛星軌道上で耐久できるかどうかの実証実験を行っている。この試みにより、CIGSが宇宙環境でも長期間にわたって耐久性・信頼性を保持し、放射線に対しても耐えられることを証明できたという。この実例から中須賀氏は「新しい技術を開発して、それを宇宙環境ですぐに実証実験を行えるというナノサットのメリットを証明することができた」と語っている。
東京大学の中須賀研究室(ISSL)では現在、分解能10〜30mの画像を撮影できるリモートセンシング衛星「PRISM」を開発している。PRISMは重さが3〜5kgであり、2007年中の打ち上げを予定している。また、星図を作成するための天文観測衛星「NANO-JASMINE」を2008〜2009年中に打ち上げるためのプロジェクトも進めている。
2005年度に登録されたユニット「専用計算機GRAPE-6を搭載する高性能科学計算機システムの開発」は有限会社のリヴィールラボラトリが中心となって進められている。GRAPE-6は東京大学が中心となって開発されたLSIだ。もともとは天文学の分野で「重力多体問題」と呼ばれる問題を計算することに特化して開発されたものである。
リヴィールラボラトリは、このGRAPE-6を基盤に、ミドルウェアと特定用途向けのアプリケーション、ユーザーインターフェースをワンボックスにして開発している。同社では、このシステムを「コスモボックス」と呼んでいる。
同社で社長兼最高執行責任者(COO)を務める田中泰生氏は、コスモボックスについて「理論的な性能として600ギガフロップスであり、流体シミュレーションや宇宙プラズマシミュレーションでは、既存品に比べて50〜100倍の計算速度という圧倒的な計算性能を有している」と語る。「しかも、GRAPE-6のボード自体は1枚約20万円。システム全体の価格も既存品の50分の1〜100分の1という高いコストパフォーマンスになっている」(田中氏)。
リヴィールラボラトリが狙っているのは、現在「ベクトル型」と呼ばれるスーパーコンピュータを補完するものとしてコスモボックスを採用してもらうことであり、また高精度なシミュレーションを必要としながらも、「これまでコストの関係で手を出せなかった、製造業の中小企業向けのシステムとしてコスモボックスを利用してもらいたい」(同)。
コスモボックスは、衛星を開発する際に宇宙での「プラズマ」と呼ばれる物体の動きをシミュレーションするためにJAXAが利用している。また、コスモボックスは、自動車が走行する際の車体の周囲で起きる空気の流れをシミュレーションすることも可能となっており、「2006年中には製品としてリリースしたい」と田中氏は話している。
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