実際にボルテージのゲームを遊んでみると、その内容はストーリーを読んで時々選択肢を選ぶだけの、非常にシンプルなノベルゲームだ。声が出たりアニメが入ったりする訳でもなく、しかも1日に遊べる長さが制限されているので一気に攻略することができない。ゲームに親しんでいる人から見ると物足りなさや不満を感じるかもしれないが、北島氏によるとそれがヒットの要因なのだという。
月額課金制を採用するモバイルコンテンツでは、ユーザーがゲームを楽しむ期間と収益が直結する。しかしこれまで女性が長く楽しめるゲームには、ロールプレイングゲーム(RPG)のように仕組みが複雑なものしか存在しなかった。そこでボルテージは、ゲームのシステムをシンプルにしてストーリーを楽しむことに重点を置き、さらに1日に遊べるシナリオと選択肢の数に制限を設け、すぐにはクリアできないようにした。
その一方で、シナリオの進行度合いに応じてキャラクターからメッセージが送られてくる、クリアすると恋人となったキャラクターからメールが届く、利用期間に応じて限定コンテンツが手に入るポイントをもらえるなど、継続利用することで楽しみが増すような仕組みを多数用意したのである。
シンプルなゲーム性、制約の多いゲーム展開などは、ゲームに詳しい人であるほどマイナス要因に感じてしまいがちだ。だがこのことがライトな女性ユーザーを取り込み、「焦らし」の効果を与え、キャラクター、ひいてはコンテンツ自体に愛着を持たせている。
ちなみにユーザーは20〜25歳の女性が中心だが、コンテンツによって傾向はやや異なるという。例えば温泉旅館を舞台としたものなどは年齢層が若干高く、学校の部活動を舞台としたものなどは、比較的若い層からの支持が強いようだ。
実は、携帯電話でリアル系乙女ゲームが人気を博してから2年近く経過しており、既に多くのCPがこの分野に参入している。例えば、同じく女性向けモバイルコンテンツに強いザッパラスも、2008年2月に「ヒルズの恋人」を提供して以降、この分野に力を注いできている。
そうした中でもボルテージのゲームが支持されている理由について、北島氏は「常に女性が何を求めているかを考えており、そうしたノウハウが社内に蓄積されている」ことを挙げている。同社が提供する占い、診断サイトや小説、コミックサイトでの人気コンテンツの傾向など、他のコンテンツから得られる女性の動向が、女心を掴む貴重なデータやノウハウとして生かされている訳だ。
また企画やシナリオを決める会議にも、女性の心を掴む大きな要素があるという。男女のスタッフが「女性をキュンとさせるセリフは何か?」といったテーマについて、「自分はどんな言葉で女性を口説いたか」といった体験談も交えながら真剣に話し合っているという。安易にエロに走ることなく、真面目に女性を喜ばせようとする姿勢が、女性の支持を得る大きな要因になっているといえよう。
さらに同社は「契約社員などを含めると女性の方が多い」(北島氏)とのことで、企画やシナリオを考える時も、若い女性が多く参加して意見を出し合っているという。もっとも女性だけでは意見が偏るので「男女両方がバランスよく参加して企画を進めることが重要」と北島氏は話しているが、女性の意見を汲み入れやすい環境が整っているというのも、女性向けサービスを提供する上で重要だといえるだろう。
乙女ゲームの分野で多くのユーザーの心を掴んだボルテージだが、ゲームだけにこだわっている訳ではないという。こだわりはあくまで「ケータイで女性を楽しませる」というところにあり、今後もゲームに限らず、女性に向けたドラマ性のあるコンテンツにチャレンジしていきたいと、北島氏は話している。
携帯電話は女性が積極的に利用するという極めて珍しいITツールであり、今回紹介したリアル系乙女ゲームのように、そこで展開されるサービスには、PC向けの発想とは全く異なる要素が数多くちりばめられている。女性の心を掴むコンテンツを作りたい企業が、モバイルサービスから学ぶべき点は多くありそうだ。
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