前回のコラムでは、昨年あたりから米国で提唱され始めた「Magnetic Contents(マグネティックコンテンツ)」という考え方を紹介した。
そもそも“Magnetic”とは、「磁気を帯びた」という意味であり、翻って「魅力的な」「人を惹きつける」という形容詞。
コンテンツマーケティングの重要性が注目される今、「すべてを惹きつけてしまうコンテンツ」という発想は、米国のPRやデジタルクリエイティブ業界で盛んに叫ばれ始めた。
前回は、マグネティックコンテンツの「メディアや人の興味を惹きつける」という要素を紹介したわけだが、第2回である今回は、もうひとつの要素である「ブランドの『拡張体験』としてのマグネティックコンテンツ」の可能性について話してみようと思う。
――が、「そもそもブランドの『拡張体験』ってどういうこと?? なんか難しそう…」という声が聴こえてくるので、理屈をこねる前にひとつの最新事例をご紹介しよう。
デルタ航空の機内アプリケーションサービス「FLY DELTA APP」だ。
日本でも導入が始まった機内Wi-Fiだが、デルタ航空では米国内線でおよそ800機以上に搭載されている。
一方で、ご承知のようにアメリカの航空会社は熾烈な競争を続けてきている。各社さまざまな差別化策や特典サービスの拡充を打ち出すわけだが、なかなかパッとしないのが正直なところ。
自分たちなりに「独自ブランド」と構えてみせても、利用者にしてみれば「たいした差がない」というのが本音だろう。
そこでデルタは、これまでにない発想で「デルタ」というサービスブランドをお客様に体験していただく方法はないか?と模索。そうして開発されたのがこの「FLY DELTA APP」なのだ。
「FLY DELTA APP」では、ありがちなフライト予約や旅先情報の提供などではなく、GPSとソーシャルネットワークとを連携することで、これまでにはない「飛行体験」の提供に成功した。
例えば、乗客は現在飛行中のエリアの情報をどんどん取得することができる。さらにユニークなのは、飛行中のマップに、フェイスブックの友人の位置情報が表示されたりもする。「おい、いまお前の家の真上を飛んでるんだよww」なんてメッセもできるというわけだ。
このサービスは大変な好評を呼んだ。実に500万件がダウンロードされ、1日10万人が利用するまでのサービスコンテンツに瞬く間に成長したのだ。
ここでこのコンテンツが果たしているのは、まさに「ブランドの拡張体験」と呼べるものだ。
そもそも航空会社の「ブランド」とは何か?ロゴや機体そのものではないのは明らかだ――それはお客様に提供する飛行体験だったり、あるいは安全性だったり、従業員の接し方かもしれない。
このアプリでデルタは「お客様に新しい飛行体験を」という想いを具現化している。それも非常に魅了的な(マグネティックな)方法で。
僕はここに、これからのマーケティングにおける重要な示唆が含まれているように思える。
産業革命から現在にいたるまで、そこには明らかな「産業区分」があった。業態、といってもよい。運輸は人を運び、メーカーはモノをつくり、サービス業は様々な利便を提供する。
その過程で生まれた「ブランド」という概念は、それらに「世界観」を付与することで付加価値をつけてきた。そして広告やPRは、それらを「伝える」役目を果たしてきたわけだが、ほとんどの場合、その対象はメーカーが開発した商品であり、またサービスそのものだった。
しかし今、こうした垣根は徐々に崩壊しようとしているのかもしれない。「モノ」「サービス」「広告」「コンテンツ」――これらの垣根は、ここ数年のテクノロジーの進化によって、溶解してきているように思える。
モノづくりのハードルは下がり、サービスや広告の概念は拡張する。デルタの「FLY DELTA APP」は、厳密にはサービスなのか広告なのか。マッシュアップの時代には必ずチャンスが潜んでいる。
「マグネティックコンテンツ」=「拡張したブランド体験」と捉えることは、これからのマーケティングの変化に大きく関係していくはずだ。
この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。
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