森祐治・情報経済への視点--求む、総力戦を仕掛けられるビジネス・プロデューサー - (page 2)

使えるものは何でも使う総力戦的発想が重要

 

 では、そんな文字どおりの融合人材が、今、本当に求められているかといえば、ノーといってもいい。法律面については、やはり弁護士でなければできないことも多く、自分ですべてやる必然性は薄い。また、クリエーターがクリエイティブの源泉であれば、プロデューサーが過度にクリエイティブである必要もない。そう、プロデューサーはプロフェッショナルとチームを組んでプロジェクトを進める人=プロデューサーといってもいい。複数領域の専門家を兼ねるのではなく、プロアクティブに専門家たちのハブになれる人であればよいのだ。

 依然としてプロデューサーには多面的な感覚という特殊な力が求められることになる。しかし、残念ながら、多面的な感覚の養成をうまく教育に乗せるのは困難だ。すくなくとも、一般教養として習得した知識を、活性化できれば十分かもしれない。そう、複数の領域の専門家になるのではなく、ディレッタント(好事家)であればよい。それらを自在に組み合わせられるスキルのほうがむしろ重要なのだ。

 80年代以降、欧米で融合領域といわれる学術領域が勃興した。従来、学術領域の多くが、対象と方法の両方から自身を定義してきた。が、ジェンダーや認知、情報、脳、複雑系といった必ずしも方法論を伴わない、対象領域だけで定義される専門家が多く現れてきた。当然のことながら、それら新興領域の専門家は複数の方法論に明るい場合が多く、その出自も多種多様で、必要に応じて適切であると思われる方法論を動員するという、目標達成的なアプローチに長けていた。実際、そんな領域指向型のアプローチは大きな成果を生んでいる。

 プロデューサーとは、そんなディレッタント・アプローチによる問題解決を体現する存在であるといってもいい。問題解決というと、コンサルタントの仕事のようにも聞こえるが、コンサルタントは事業の実現には必ずしも携わらなくてもよい。その点において違いがある。プロデューサーは、次々と視野の中にあらわれる問題を自らの手を入れながら解決し、前進し、最終的なゴール達成をする。

意外なところでつまずく

 しかし、人間の陥りやすい一つの特徴として、目標達成という大義名分のもとであっていよいよ、周辺領域に意識が及ばなくなる「視野狭窄」傾向がある。その副作用として、より優れたツールが周辺に存在するのにも関わらず、手持ちの武器でのみ戦おうとしてしまうことがあげられる。更に、手持ちの武器ではすでに勝負が目に見えているにもかかわらず、外部リソースを求めないことすら多くある。

 米国の先端的なIT企業では、長らく文化人類学や教育学、社会学に心理学といった領域の研究者を採用している。利用者が持つOAやITのメンタルモデルという、これまでとは違うツールを導入することで、工学を中心とした従来の製品つくりとは一線を画すものを作り上げることに成功した。また、多くのR&D機関では、意図的に異領域のポスドクや院生をインターンとして雇い入れ、ある確率でイノベーションの発生確率を高めることに成功している。

 異分野であっても、使えるものはとことん使ってしまう。むしろ、異領域であるがゆえに、ブレークスルーが生まれる。そんな究極のディレッタント性ともいえる「総力戦」的な発想がプロデューサー人材には求められる。しかし、日本では、当のプロデューサー自身が、自らの経験や出身領域に束縛されている、いや束縛されたがる傾向が強い。それでは、この複雑な世界の問題解決は実現しない。むしろ課題の解放のカギは、異領域にあるといってもいいのに。

 ネットワーク化が進行し、世界の多くがモジュール化された現在、必要に応じて多種多様なリソースを自在に組み合わせるデザイン力、あるいはそれを下支えする構想力こそが重要になりつつある。それはプロデューサーにだけ適用されるものではないかもしれない。しかし、矛盾するようだが、そんな力は、予め抽出されたエッセンスを効率よく学べば習得できるという類のものではない。いくつかの領域を学んだ末に、ある日突然獲得できる、一種ゲシュタルト的なものであろう。

 現在、そんなプロデューサーの特性を理解して、プロデューサー人材育成プログラムをプロデュースすることが急務だ。そんなビジネス開発力をもったプロデューサー人材の需要は膨大にあるに違いない。

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