幻想は半年でついえる:本当の成長を求めて

幻想は半年でついえる:本当の成長を求めて

  先月末の新聞を見て、「やっぱり」と思った方も多かったに違いない。依然として日本経済のけん引役である電機大手は「完全な復活」など遂げていなかったことが明らかになったのだ。だが、そもそも「復活」などしていてもどうしようもないことをなぜ誰も語らないのか。今必要なことは「進化」でしかないことは誰の目にも明らかだというのに。 目先の短期間の業績の好転に浮かれて「ハレ」の気分を味わうと本質的な命題を忘れてしまう「懲りない面々」の仲間内から、そろそろ卒業するべきではないか。

「復活」という「幻想」を作り出したもの

 前世紀末の10年間、特に最後の数年から今世紀初頭にかけて、大手電機メーカーでは大幅な製造工程のリストラと大胆な製品ラインアップの絞り込みが頻繁におこなわれた。その成果として、当然のごとくV字回復に成功した。しかし、その過程で戦線から脱落したプレイヤーも多くいたためか、V字回復こそが成功への唯一の道のように語られることが多くなった。が、そもそも皆で激しいV字カーブを描く必要はなかったのだし、できることならそんな落ち込みなど必要としない長期的な戦略の策定とその粛々とした実行力の確保こそが重要だったのだ。それを忘れた議論をしても仕方がないことを、誰もが語るのをやめてしまっていた。

ジャーナリストやアカデミアは、なぜ警告を怠ったのだろうか。賢くさといが故に罹患(りかん)する一種の学習性無気力が、メーカー当事者ならずとも蔓延しているに違いない。しかし、その病根そのものは、コミュニティの個々人の中にあるというよりも、組織的構造に根差すものではないかと想像しているのだが。

 一部の人々の憂慮をよそに、大手家電各社の経営陣とその取り巻きと化したメディアの多くは、日本中核産業の「復活」に歓喜した。そして、巨大な中国という新大陸の発見を今さらながら声高に宣言することで、更なる設備投資の拡大を正当化し、将来への成長の確信にすら言及した。その様子はあたかも実力だけでは到達できない目標をクリアするために自らの気力を奮い立たせ、同時に周囲の無意識的な支援行動を期待するときに行われる「自己達成予言」行為のように見えた。

やはり訪れた現実への対応

  世の中、そんなに甘くないのだ。「好景気」という実感の伴わない文字が大手メディアの1面に躍ったのは、ほぼ1年から半年前。しかし、電機・情報大手の中間決算が先週で出揃ってみれば、それらが「幻想」だったことが白日の下に晒されるだけだった。すでにメディアは一歩身を引き、「下方修正」や「鈍化」といった言葉を乱発するようになっている。

  実際に大手10社の発表を見ると、売上高は微増、営業利益ではかなりの改善を見せている企業が多い。しかし一方、下期の伸びを懸念して3月通期での予想の据え置きや下方修正をする企業が相次いだ。

電機10社の連結業績
売上高 営業利益 最終損益
松下電器産業 43,185(19)
88,000(18)
1,563(96)
2,800(43)
561(143)
630(49)
日立製作所 43,299(7)
89,000(3)
1,273(529)
3,000(62)
411(664)
1,000(530)
シャープ 12,570(15)
25,300(12)
775(32)
1,500(23)
393(41)
750(24)
NEC 23,031(1)
49,000(0)
593(2)
1,500(▲18)
251(63)
600(46)
ソニー 33,144(▲3)
73,500(▲2)
531(7)
1,600(62)
764(125)
1,100(24)
東芝 27,818(7)
58,700(5)
506(−)
1,900(9)
83(−)
500(73)
三菱電機 16,079(3)
34,000(3)
432(258)
1,200(29)
190(399)
700(56)
三洋電機 13,167(3)
26,800(3)
389(▲14)
970(2)
34(▲65)
140(4)
富士通 22,200(4)
49,000(3)
332(−)
2,000(33)
▲81(−)
700(41)
パイオニア 3,450(8)
8,000(14)
132(▲24)
270(▲38)
48(▲61)
100(▲60)
(注) 上段は2004年度中間期実績、下段は同通期見通し。単位は億円。カッコ内は前年同期比の増減率。▲は赤字(カッコ内は減少)、−は比較不能を示す。2004年10月30日付けの日本経済新聞朝刊を基に作成

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