楽天は10月13日、東京放送(TBS)に対して共同持ち株会社の設立による経営統合を提案したことを明らかにした(関連記事)。
三木谷浩史社長は、楽天のネット運営のノウハウとTBSが持つ豊富な番組などのコンテンツ(情報内容)を組み合わせ、ネットと放送の融合による高収益の企業グループの構築を目指しているとした。同時に楽天は、TBSとの統合に向けた協議を開始するに際して、10月12日現在で同社の子会社を通じて、TBSの普通株式を合計2938万株(保有比率約15.46%)取得したことを明らかにした。さらに楽天は、TBSと統合することで「両社の株主や従業員、視聴者などステークホルダーの享受する価値を最大限に高めることを目指す」としている。
これに対し、TBSの井上弘社長は同日、楽天の提案について「今後、慎重に対応を検討する」とのコメントを発表。「これまで業務提携について協議を続けてきた中で、何の事前連絡もなく短期間に、かつ大量に株式を取得したことに、唐突な印象を受けている」と、突然の統合提案に戸惑いを見せた。今年の年明けからから春にかてのライブドアによるニッポン放送株の買占めなどフジサンケイグループへの攻勢と、今回の楽天の動きに果たして違いはあるのか。
今後の焦点は、共同持ち株会社による経営統合提案へのTBSの対応と、それを受けて楽天がどういう方法でいわゆる敵対的M&Aに踏み切るかどうかに絞られてくる。TBSとしては、ある程度時間をかけて防衛戦略を構築したいところだが、今後も楽天があらゆる手を尽くして買い増しに動く懸念もある。一方、楽天にとっては、約880億円にも達する調達資金(大手外資系金融機関を中心とした複数の金融機関からの借入れとみられる)の金利負担や、今後TBSの株価上昇に伴う資金効率の悪化(買い増しした場合の)を考慮すると、1日でも早い経営統合の成立を望んでいることは間違いない。
外資系証券のストラテジストは、「今回の楽天問題は、株式市場の一部では少し前から噂としてささやかれていたうえに、表面的な構造はライブドア問題と同じで二番煎じと受け止められていることからサプライズは少なかった。しかし、本当はライブドアの件とは大きな違いがある。それは、楽天が“本気”でTBSとの統合を目論んでいることだ。さらに、それに向けて水面下でかなり周到な“根回し”を行ってきた点に表れている」としている。
ライブドアの時にはマイナスの評価が相次いだ政界関係者からも、今回はプラスに近い受け止め方が多い。10月14日の閣議後の記者会見で一部の閣僚から、楽天の株式取得に一定の理解を示す発言が相次いだ。放送事業を所管する総務省の麻生太郎大臣は、「(株式を)公開すれば経営者は株主を選べない。それが嫌なら公開しないことだ。(経営統合の申し入れが)けしからんとは、なかなか言えない」との考えを示した。さらに、小池百合子環境相も「TBSなどの報道各社が株式を公開しているということは、いつでも買われる対象であるということに尽きると思う」と述べ、上場している放送局は常に合併や買収提案などの対象になり得るとの認識を示した。また、経営統合後に複数の球団オーナーとなる問題についても、読売巨人軍の渡辺恒雄球団会長と会談したとされている。
三木谷社長は、非常に好調なこれまでの楽天の業績推移にはいくつもの幸運が重なっていることを十分自覚しているようだ。景気回復やこれに伴う個人消費の回復に支えられたEC市場の予想を上回る急成長、ネットを経由した個人投資家層の急拡大を映した金融事業(楽天証券を中心とした)の好調など、強烈な追い風が吹き続けたことは確か。
しかし、楽天球団の設立による知名度の向上で一時的に盛り上がったアクセス数が伸び悩み傾向をみせるなど、中長期的な視点で見ればEC市場に関連した事業の成長が鈍化する懸念もある。したがって、早急に優良な映像コンテンツや情報収集ネットワークを保有するテレビ局との本格的な提携を必要としているわけだ。
もし、共同持ち株会社による経営統合が実施された場合、現在の両社の時価総額から判断すれば、約1兆円の楽天に対してTBSは約7000億円であり、常識的には楽天が有利となることは明らかだ。したがって、現状ではTBSが経営統合に応じる可能性は極めて少ない。かといって、楽天がTOB(株式公開買い付け)など、なり振り構わず敵対的なM&Aに走っても、51%を確保することは至難の業だ。そのため、結局は両社間での条件闘争となり、互いにある程度の株式を持ち合ったうえで、かなり踏み込んだ本格的な事業提携に踏み切ることで合意し、経営統合については“継続審議”として、当面棚上げとなる可能性が高いのではないだろうか。
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