プロ野球のパシフィック・リーグ(パ・リーグ)における「新規ファン獲得」を命題に、パ・リーグ全6球団のインターネットでの映像配信や、コラボ企画を担うパシフィックリーグマーケティング(PLM)。2021年からNFT関連事業を開始するなど、意欲的なデジタル活用などでも注目を集めている。
同社のこれまでの取り組みや今後の戦略について、代表取締役CEOである根岸友喜氏に話を聞いた。
PLMは、2007年にパ・リーグ6球団の共同出資で設立された合弁企業だ。プロ野球パ・リーグ公式戦のライブ配信などの情報を発信する「パーソル パ・リーグTV」や「パ・リーグ.com」、「パーソル パ・リーグTV」の公式YouTubeチャンネルなどのインターネット映像配信およびインターネット配信権の販売、海外市場との放映権および配信権の交渉や、デジタルマーケティングを担っている。
PLM設立前の2004年から2005年にかけて、パ・リーグでは親会社の変更や本拠地の移転などの大きな変化が続き、“親会社の野球部”としての位置づけから“球団単体でビジネス化する”という意識に変化。当時のパ・リーグには、セントラル・リーグ(セ・リーグ)の人気球団が持つ放映権のような大きなコンテンツがなかったこともあり、6球団が共同で取り組むという機運が高まりやすかったという。
2007年のPLM創業時は、サーバーなどのインフラの共同購入によるコスト削減や、パ・リーグを代表しての「クライマックスシリーズ」のスポンサー獲得などで貢献する一方で、当初のPLMの社長は各球団の社長が持ち回りで兼任。社員も球団からの出向で構成しており、リスクを取るビジネスを避ける傾向があったとのこと。
しかし、2012年からは方針を転換。PLM 代表取締役CEO 根岸氏によると、「PLMが実施するものについては、キャッシュアウトのリスクを各球団にかぶせないようなモデル」を作り、新規事業を開始。それ以前からも、野球観戦は球場やテレビが当然だった時代にライブストリーミングサービスの試みを行っていたが、「パ・リーグTV」(現在は「パーソル パ・リーグTV」)として本腰を入れるようになった。
世界的なスポーツビジネスの潮流は、全てのチームが所属する団体を作り、各チームの売り上げから一定額の拠出金を支払い、分配金を受け取るというもので、放映権も団体で一括管理する仕組みが一般的だ。
日本のプロ野球の場合はその逆で、商業権利をほぼ100%各球団が持つ。根岸氏は「その既得権益を手放すのは、構造的にも心情的にも難しい。割り勘負けしたくないという意識が働いてしまう」と語りつつ、「その半面、既得権益になっていなかったインターネットの映像配信などの部分はまとまりやすかった。(各球団の賛同を得るために)球団がキャッシュアウトしないでできるモデルを作って実現した」と説明。その後、動画視聴の市場は時流に乗り、順調に成長しているという。
パ・リーグ全6球団が危機感を持って共同で設立したPLMとはいえ、決して強権的に事業を進められたわけではないのが分かる。むしろすき間を縫うように慎重に進めた経緯から、歴史ある業界の改革の難しさが伝わってくる。PLMのインターネット関連の事業が、成功するかどうかも分からない小さなビジネスだったからこそ実現し、今の時流に乗って成功したというのが事実のようだ。
こうした既得権益や各球団との調整の難しさもありながらも、2013年には昔のユニフォームを着用して試合に臨む「レジェンド・シリーズ2013」を6球団で初めて共同で実施。これをきっかけに、セ・リーグにはない“パ・リーグ全6球団を代表して交渉できる”部分を生かし、PLMでは集客イベントで確実に実績を積み重ねていく。
中でもパ・リーグ全6球団で共同実施した集客イベント「パ・リーグ 親子ヒーロープロジェクト」は象徴的だ。2014年シーズン「ウルトラマンシリーズ」、2015年シーズン「仮面ライダーシリーズ」、2016年シーズン「スーパー戦隊シリーズ」、2017年シーズン「コロコロコミック」、2018年シーズンにディズニーとピクサーの「インクレディブル・ファミリー」と続き、“どこか1つの球団と組むのではなく、広くアピールしたい”と希望するコンテンツとコラボする流れを作っていった。
現在は、このパ・リーグ全6球団とのコラボ企画は定番となり、「ドラゴンクエストウォーク」や「ラブライブ!シリーズ」など、さまざまな分野のコンテンツと集客イベントを実施。「初音ミク」やVTuberグループ「にじさんじ」とのコラボでは、グッズ販売で高い効果があり、インターネット上の映像視聴も圧倒的に増えるなどの効果もあったという。
根岸氏は、こうした取り組みもありパ・リーグのファン数について「パ・リーグは、20年前はセ・リーグに対して『1:3』とも『1:4』とも言われていましたが、現在は『1:1.8』程度まで来ています」と説明。同社の目的を、「球場への送客が本質的な価値」であるとしつつ、「デジタルでの取り組みをデジタルで完結させる」ことにもあると語る。
「居住地から遠い場所で行われる試合は見に行きにくく、どうしても商圏が限られる。しかしインターネットやデジタルのあらゆるコンテンツやメディアを使えば、(映像配信などで)もっと全国規模で、幅広い年代に届けられる。われわれがライフタイムバリュー(顧客生涯価値)観点で必要だと捉えている、若い人たちにも届けやすい。PLMが担うのは、デジタルにおいてどれだけ集客を行えるか。“自分たちだけではしょせんプロ野球ファンにしか届かない”という自戒もある。日本の人口は減少傾向のため、今後の20〜30年を考えると野球ファンだけに閉じていては産業として縮小していく。ほかの産業と組んだりデジタルを活用したりすることで、われわれの価値を届けていきたい。その象徴がこれらの取り組み」(根岸氏)と、数多くのコラボ企画をしかける狙いを説明した。
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