ドローンによる農地の見える化技術の開発に取り組む日本のドローンスタートアップ、ドローン・ジャパンは4月14日、ドローンとAIによるリモートセンシング技術を活用し、フランス農地において有機農法で育成したブドウを使った、「ドローンワイン」を発表した。
同日から、「ドローンワインプロジェクト」協賛企業であるワイン専門商社のフィラディスと、成城石井が販売を開始。2022年の出荷予定量は、フィラディスの「ビコーズ, アイム シャルドネ フロム サザンフランス」は3万〜5万5000本、成城石井の「アッサンブラージュ ブラン 2020」は3万本。いずれも1本あたり750mlで約1500円と、お手頃価格だ。
いま、ドローンに搭載できるさまざまな種類のカメラで、農地を上空から撮影して、画像データから農作物の生育状況を判断し農作業に生かす、いわゆる“リモートセンシング”が、世界中で広がりつつあるという。
ドローン・ジャパンは、2015年に設立、2017年にDRONE FUNDより資金調達した日本のスタートアップ。設立当時より、気候変動に影響を及ぼすとされる「農薬と化学肥料の過剰な使用」を食い止め、SDGsの目標15「陸の豊かさを守る」に貢献するべく、リモートセンシング技術の開発を進めてきた。
「ドローン米プロジェクト」では、日本各地の篤農家が手がける有機栽培の米作りを、ドローンによる田んぼの見える化で支援している。今回発表したドローンワインプロジェクトは、その第二弾。日本の農地面積の約5倍を誇る、農業大国フランスへと羽ばたいた。
ポイントは2つある。1つは、同社の農業リモートセンシングでの情報取得や分析に関して2016年から助力してきた、東京大学特任准教授の郭威氏の協力で、ドローンとAIを活用したワインブドウ畑における作物と雑草を区別解析する手法を開発した点。
もう1つは、フィラディスと成城石井がすでに輸入、販売しているフランスのワイン生産者の協力を得て、日仏のコラボでプロジェクトを進めた点だ。
ドローンワインプロジェクトは、この有機栽培支援技術を活用して、フランスの協力生産者が畑で収穫したブドウを原材料として使い、日本の消費者に届けていくものだ。技術の確立や普及と同時に、「自然と調和の取れた農業」やSDGsに対する、消費者の啓発も図る。
ドローン・ジャパンで代表取締役社長をつとめる勝俣喜一朗氏は、フランスでのワイン用ブドウ栽培に着目した狙いをこのように述べた。
「フランスの農地は2000万haもあるが、有機栽培農地は全体の10%を占める。いまだ0.5%の日本と比べて先進的だ。化学肥料の年間使用量も、農地規模比率で日本より40%も少ない。日本でも、2050年に有機栽培農地比率を25%に引き上げるという政府目標が掲げられた。日本の米、フランスのワインという、各国における最大農地面積を占める作物の有機栽培支援技術の研究、実証、開発をダイナミックに進め、世界の有機栽培比率向上に寄与したい」(勝俣氏)
勝俣氏の挨拶に続いて、ドローン・ジャパンで取締役会長をつとめる春原久徳氏が、ドローンを活用したリモートセンシング技術が注目される理由を、このように話した。
「リモートセンシングで、農作物の生育状態や収穫時期などの情報を得ることで、肥料散布や収穫の計画立案、農作物の収量向上や品質向上に役立つ。さらに、商社や食品加工、スーパーやレストランに、収量や収穫時期の予測情報を提供して、サプライチェーンマネージメントの向上に役立てるケースも増えている。SDGsの観点からも、農地の地力維持や有機栽培の取り組みは、中長期的に非常に重要だ」(春原氏)
現在、農業リモートセンシングでよくある事例は、“生育ムラ”の状況把握だという。ドローンに搭載した可視光カメラで水田、農地などをくまなく撮影し、1枚の画像に合成して、「緑が濃い部分は生育良好、薄い部分は生育不良」のように判定して、全体の状況を見える化する。
結果を食性指数などの数値に換算して、生育ムラを精緻に把握した上で、肥料散布などの対策をして生育ムラを解消する。
また、ドローンで取得した画像データをAIで解析して、事前に取得したコーンの粒数などのサンプルデータと掛け合わせて、農場全体の収量予測を算出する事例もある。収量予測データの提供を受けた商社や食品加工会社などは、配送トラックの準備や工場での生産ラインの計画立案に用いることで、より効率的で無駄のない管理が可能になるという。
そのうえで春原氏は、ドローンワインプロジェクトで、実際にフランスの協力生産者が活用した、リモートセンシング技術の内容を説明した。主には、「地力分布」と「雑草区別分布」の解析だ。
「地力分布」では、ドローン空撮データの分析精度を高めるために、農場のいくつかのポイントで生産者が生育状況を「エクセレント」「プア」のように評価入力し、上空からの作物の色、形、大きさなどをAIで学習して地力を推定する手法を確立した。ラングドック地方の生産者、ベルナルド・カマン氏が協力した。
「雑草区別分布」では、有機作物の生育状況をより正確に把握するために、作物と雑草等を区別する新しい解析手法を、農業フェノタイピングの世界的な第一人者ともいわれる郭氏が開発。
郭氏は、「ドローン空撮写真を使って、高精度な農場の3次元化を行い、そのなかで地面や雑草と作物とを区別して、作物の生育状況などをさまざまな指数で定量的に評価できるようにした」と、技術の概要を説明した。ガスコーニュ地方の生産者、フィリップ・フェザス氏が協力し、AIの精度向上を図った。
発表会には、フランスから協力生産者の2人も参加し、リモートセンシング技術を活用した感想をこのように述べた。
「これまで25年間、このワイナリーで行ってきた変革や選択が、正しかったかを確かめる必要があると考えていた。畑を歩き、自分の目で観察できるのは5%程度だが、ドローンによるマッピングは農場を100%見える化できる。これは非常に有意義だと感じた。もともとは成城石井とのコラボレーションで、日本の食卓にあうワインを作ってきたが、ドローン・ジャパンの技術を活用することで、この取り組みをさらに高めることができるだろう」(フェザス氏)
「気候が大きく変わるなか、未来にふさわしいブドウ栽培のあり方を模索していた。さまざまなデータに基づいて決断していく必要があるが、ドローンは非常に有用なデータ取得ツールであることが分かった。現在すでに今回の結果を踏まえ、70haの再編中の農場を、いかに再編するかの検討に入っている。フランスにおけるブドウ栽培面積はとても広いので、地球環境にやさしいブドウ栽培のあり方を模索し、そのために何をするべきかを、このプロジェクトを通じてより一層深めていきたい」(カマン氏)
また、フィラディスの代表取締役社長をつとめる石田大八朗氏は、「地球に優しい有機農法は人的コストが大きい。高級ワインの産地はともかく、一般的な価格帯のワインでは、まだ普及しきれていないのが現状」と指摘したうえで、技術活用による有機農法の低コスト化にも期待を滲ませた。
発表会の最後に勝俣氏は、「ドローンとAIで、世界の有機栽培比率を上げたい」とグローバルでのさらなる活動に意欲を示し、5月25日にフィラディスと共同で開催予定のドローンワインプロジェクトのキックオフイベントへの参加を呼びかけた。ドローンとAIを活用して有機栽培を支援する農業リモートセンシング技術や、SDGsについて理解を深められるという。参加費用は無料だ。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」