携帯4社の決算が出揃った。楽天モバイルからのローミング収入などもありKDDIが増益に転じたが、やはり料金引き下げの影響が非常に色濃く、各社の業績は冴えない。ただ菅義偉前首相の退任で政府からの引き下げ圧力は弱まったこともあり、各社の取り組みは料金引き下げから5Gの整備へと大きくシフトしつつあるようだ。決算内容から5Gを巡る各社の取り組みと課題を振り返ってみたい。
まずは各社の決算を振り返っておこう。NTTドコモ(ドコモ)の2021年度第3四半期決算は、売上高が前年同期比0.1%増の3兆5175億円、営業利益は前年同期比6.3%減の7696億円。ソフトバンクの2022年3月期第3四半期決算は、売上高は前年同期比9.6%増の4兆1738億円、営業利益は2.4%減の8212億円と、いずれも前四半期と同様、増収減益の決算となっている。
楽天モバイルを有する楽天グループの2021年12月期通期決算も、売上高は前年同期比15.5%増の1兆6817億円、営業損益は1947億円と、やはり前四半期と同様赤字決算となっている。
一方でKDDIの売上高は前年同期比2.3%増の4兆138億円、営業利益は前年同期比0.4%増の8746億円となり、唯一前四半期から一転して増収増益の決算に戻しているのだ。
楽天モバイルはネットワーク整備に向けた先行投資、ドコモとソフトバンクは政府主導の携帯料金引き下げが業績悪化の要因だ。だがKDDIも同様に料金引き下げの影響を強く受けており、同社の代表取締役社長である高橋誠氏は「減少幅が大体600〜700億円と予測したが、実はもう少し膨らんできている」と、料金引き下げの影響が非常に大きい様子を見せている。
にもかかわらず増益に転じることができたのは、楽天モバイルからのローミング収入によるところが大きい。ただ一方で、楽天モバイルにとってローミング費用は経営の大きな重しになっていることから、同社はいち早くローミング費用を削減するべくエリア整備の大幅前倒しを進めてきた。
実際2月には4Gの人口カバー率96%達成を、当初予定の4年前倒しで達成したと発表。それに先駆けて2021年10月からは39都道府県の一部からローミングの終了を実施しており、今後本格的なローミング終了に向け動きを積極化するものと見られている。
楽天グループの代表取締役会長兼社長で、楽天モバイルの代表取締役会長兼CEOも務める三木谷浩史氏は、ローミング費用に関して「だいぶシュリンクしているが、一方でユーザーは増えている」と説明、ユーザー数の増加に伴いローミングの支出が増えている様子を示す。それだけに三木谷氏はローミングの終了によるコスト削減に強く期待しているようだ。
一方でそれは、ローミング収入という“特需”を得てきたKDDIの経営を落ち込ませることとなるが、高橋氏は同社が他社に先駆けて3月末に3Gのサービスを終了させ、大幅なコスト削減が見込めることから収入減少は十分補えると説明。少なくとも3Gサービス終了のため、4Gや5Gへの移行を進める“巻き取り”が今後も必要になるドコモとソフトバンクと比べれば、一定の優位性を獲得できたと見ているようだ。
もちろん料金引き下げの影響は今後も続くため、携帯各社の業績が振るわない状況は当分続くと考えられる。ただドコモの親会社である日本電信電話(NTT)の代表取締役社長である澤田純氏が「競争は一息ついていると思う」と話すなど、各社ともに料金引き下げに向けこれ以上施策を打つ必要はないという認識のようだ。
その背景には、1年のうちに低価格な携帯電話料金プランの充実が大幅に進み、一部調査では世界主要都市で最も安いという結果が出たことがあるが、何より携帯料金引き下げにとても熱心だった菅義偉氏が、2021年9月末をもって首相から退いたことが大きいだろう。政府の圧力がなければ無理に料金競争を続けて企業体力を落としたくないというのが各社の本音でもあるだけに、今後低価格プランを巡る動きは落ち着くものと見られる。
そこで今後の競争軸は、ようやく5Gのネットワーク整備へと移っていくものと考えられる。しかも現首相の岸田文雄氏が「デジタル田園都市構想」を掲げ、地方での5Gエリア整備を加速するよう各社に要請していることもあって、今回の決算説明会では各社ともに5Gのネットワーク整備に関して具体的な言及をする場面が多く見られた。
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