8月25日から9月22日にかけて、CNET Japan主催の「不動産テックオンラインカンファレンス2021 一歩先ゆくスマートな街・移動・暮らし」が開催された。6回目となる2021年はスマートシティをテーマに掲げ、毎週水曜日にセッションが開かれた。
初日のトップバッターは三菱地所だ。1世紀を超える歴史をもつ不動産デベロッパーとして、国内外の不動産開発や施設・地域戦略の企画、あるいは不動産に関わるデジタル基盤の構築、コンテンツ開発などを手がけてきたノウハウをベースに、同社は今、新たなまちづくりのプラットフォームをスタートさせている。その詳細を、同社DX推進部の 春日慶一氏が解説した。
局所的な場所や施設ではなく、街全体を「面」で開発するところに強みをもつ三菱地所が、今、東京・丸の内エリアや横浜・みなとみらい、仙台・泉区などで始めているのが、オンラインとオフラインの両方の側面から街を体験、利用できるようにするデジタルを用いた取り組みだ。
不動産デベロッパーである同社は、これまではリアル、つまりオフラインの施設における体験の提供を中心に考えてきた。しかし、近年の個人の行動やマインドの多様化、あるいはオンラインという選択肢が増えたことによって、ビジネス構造にも変化が迫られているという。
たとえば丸の内という街を訪れた人について、オフィスや店舗などの物理的な接点を通じて得た情報だけでは、その個人の一側面しか見えない。オンラインの世界で仕事も買い物もできる今、そこで個人が何をしているのか、という情報も重要だ。リアルの価値提供だけでは個人のニーズを満たすことができず、その個人としても「街と関係することによる自分のメリット」を実感しにくい問題もある。
春日氏が「個人の嗜好をデータとして把握しにくいのが不動産ビジネスだった」と明かすように、オンラインは元より、オフラインでさえ個人の動向を十分につかめないのが不動産デベロッパーの弱点でもあった。そこで、「街にデジタルを実装し、個人がどういう状況にあるのかを見つめ直すことで、街が本当に提供すべきものが見えてくるのではないか」という発想で同社がスタートさせたのが、「Mitsubishi Estate Local Open Network」(MELON)というプラットフォームと、そのなかで重要な鍵を担う「Machi Pass」という共通認証基盤だ。
これまでのまちづくりでは、サービスの提供がオフィスビル、商業施設、ホテル、マンションといったように、施設ごとに分けられていた。たとえばオフィスビルの入館証はそのビルの入館にしか使えないし、商業施設で使える会員カードはその商業施設ごと、店舗ごとのものがある。もちろん、それを管理するデータ自体も各施設ごとのサーバーに保管されているのが当たり前だ。
しかし、このようにデータが散在している状況だと、「1つの街としての体験を提供することは難しい」と同氏。個人の1施設における行動のみをもとにニーズを推測して体験を提供していくという、ある意味場当たり的な対応しかできず、個人が本当に求めていることを探って「価値」として提供することはまず不可能だ。
そのためMELONでは、個人に関連するデータを統合・管理する基盤と、オンライン・オフラインを問わず街の中にあるさまざまなサービスとの顧客接点を用意する。大まかなシステムの流れとしては、個人の行動データを分析・最適化して、それを街の各所でオンライン・オフラインの体験として還元し、そこで得られたデータをもとにさらなる分析・最適化を行う。こうした個人起点での体験提供とデータの還流という「UX Loop」を繰り返していくことで、まちや住まいへの愛着と信頼に基づくまちづくりを目指すわけだ。
そのためのバックエンドとしては、まず「データ収集」を行い、「データを蓄積して意味づけ」したうえで、「個人に働きかける・データを活用する」という3ステップが必要になってくる。なかでも同社が現段階で特に重視しているのが、最初の段階の「データ収集」。その取っかかりとしてすでに運用を開始しているのが、共通認証基盤の「Machi Pass」となる。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」