米国土安全保障省は、マスクをした顔でも高い精度で認識できる顔認識技術を試験運用した。これが実用化されれば、旅行者は国境検問所でマスクを外さずに空港を通り抜けられるようになる。
この試験運用は、同省の研究開発部門である科学技術局が開催する生体認証技術大会の一環として実施された。2018年から毎年開催されているこの大会では、専門家、テクノロジーベンダー、ボランティアが集まり、最先端の生体認証システムをテストし、多様なシナリオでの顔認識技術の使用がもたらす課題に対応できるかどうかを確認する。
今回の大会は新型コロナウイルスの世界的流行がもたらした新しい課題に対応するため、さまざまなマスクを装着した人々の画像を高精度で収集、照合する人工知能(AI)システムの能力を評価するのが主なテーマだった。最終的には全米の国際空港でこのシステムを導入することを視野に入れている。
10日にわたるイベントで、60カ国の約600人のボランティアの協力を得て、60種類の顔認識システムをテストした。テストしたのは、6種類の画像収集システムの組み合わせと、10種類のマッチングアルゴリズムの組み合わせで、人の顔を人の顔と認識して写真を撮る能力や識別プロセスの信頼性を複数の項目で評価した。
ボランティアはマスクをした状態と素顔の状態の両方でシステムの前に立つよう求められた。国土安全保障省によると、テストしたAIシステムの識別率は、素顔の場合は平均93%、マスク装着時は平均77%だった。
ただし、結果はシステムによって大きく異なった。例えば、最も優秀なシステムは、マスクを装着した状態でも識別率は96%だった。このラリーでテストしたシステムの中で最も性能が悪かったものは、マスクを装着した個人の識別率がわずか4%だった。
科学技術局生体認証およびID技術センターのディレクター、Arun Vemury氏は「これは完全無欠なソリューションではない。だが、多くの旅行者と空港の最前線で働くスタッフのリスクを減らすことにつながる。空港スタッフは、旅行者にマスクを外すよう頼む必要がなくなる」と語った。
顔認識技術は現在、「Simplified Arrival」と呼ばれるプログラムの一環として米国の一部の空港で利用されている。米税関・国境警備局(CBP)が導入したものだ。このプログラムの下、出入国する旅行者は渡航文書を提示しなくても、顔写真を撮るだけで空港の国境検問所で身分を証明できる。
顔認識アルゴリズムは、撮影した顔写真を、旅行者が事前にパスポートやビザで政府当局に提供している写真のデータベースと照合して身元を確認する。 旅行者はこのプロセスを拒否することもできる。その場合は、CBPの担当者が従来の渡航文書による審査を実施する。
CBPによると、これまでに5500万人以上の旅行者がSimplified Arrivalを使ったという。2018年以降、このプログラムは偽造した渡航文書で不法入国しようとした300人の「詐欺師」の入国を阻止したという。
Simplified Arrivalプログラムの技術は導入以来、激しい議論の的になっている。議論の多くはその精度をめぐるものだ。例えば米政府監査院が2020年に公開した報告書によると、CBPの顔認識技術には目標値を達成できなかった項目もあったという。
また、CBPのシステムでは旅行者の0.0092%がデータベースにある別人の写真と誤認されたことも報告されている。この数字は一見小さいように見えるが、全米規模では大きな件数となる。
さらに、CBPは出入国者の人種や民族に関する情報を持っていないため、この分析は限定的なものだと述べたという。つまり、この技術によって国境検問でマイノリティーに対する差別が生じる可能性がある。
米国自由人権協会(ACLU)はCBPによる顔認識システムの使用を長く批判してきた。ACLUの弁護士、Ashley Gorski氏は2020年に公開したブログで、「過去2年で、顔認識技術はうまく機能せず、機能したとしても市民の自由とプライバシーの悪夢と化すことが明らかになりつつある」と主張した。
一方、国土安全保障省は、これまでの大会では生体認証システムが顔認識技術で多数の旅行者を迅速に照合するのに秀でていることが示され、今回はシステムをマスク着用者に適応させることに着目した述べた。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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