また大企業は構造上、新事業を生み出しにくいとされている。社長・取締役クラスが「新たなチャレンジ」を求め、若手がそれに呼応しても、結局は部長・課長クラスに企画を跳ね返されてしまう。実によく聞く話だ。
「イノベーションとは、他社がやっていないユニークなポジションを得ると言うこと。市場データはないのが当然であり、成功のロジックを完璧に説明しきるのは非常に難しい」(木内氏)
こうした議論は、社内における世代・役職間の対立にもおよびかねないが、木内氏はむしろ「実はみんな自分の担当領域で一生懸命仕事をしているだけ」と感じているという。特にバブル崩壊後は、ダメージを効率経営でどのように回復するかが日本企業では重視され、実際にそれを達成した人物が昇進する傾向にある。つまり、コスト削減に長けた人物が役職を勝ち取り、その得意な領分をますます発揮させるため、結果として新事業の優先度が落ちてしまう。
では、結局どうしたらいいのか。木内氏は1つのヒントとして、ビジネス書「シリアル・イノベーター 『非シリコンバレー型』イノベーションの流儀」にて言及されている「砂時計モデル」を挙げた。
この本は、国際的な生活消費財メーカーであるP&Gなど大企業が、いわゆる“シリコンバレーのベンチャー”ではないのにも関わらず、ヒット商品を次々と生み出し続けられるのかを研究したもの。砂時計モデルとは、「適切な課題の発見」「課題の把握」「サービス・技術開発と評価」「遂行」「市場での普及促進」の5要素をまとめたチャート図のことだ。
木内氏は、この砂時計モデルで実際にヒット商品を生み出した人の共通項として、5要素に一気通貫で最後まで関わっている点を挙げた。課題を発見した人物が、事業部の壁を越えて、市場での普及促進にまで携わるのだという。
これを踏まえて木内氏は、企業内で新製品・サービスを生むためには、まず最初の企画が重要なだけでなく、「企業のドメインと方向、ある程度の規模感がバランスする領域で、否定しにくいロジック」を打ち立てることが重要ではないかと述べた。“大成功のロジック”ではなく、「経営戦略には則っています」など、社内で否定しにくい論理を作ることも時には必要ということだろう。
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