また私たちと数年のお付き合いのある食品メーカーでは、その年のマーケティングプランを開発する際には研究開発、宣伝、事業部、営業、売り場、ウェブ担当が入り乱れて「研究所にこんな情報がある」「売り場のお客様の声はこんな傾向にある」など喧々諤々の議論をしながらプランニングが進んでいきます。
しかしこれも当社が伺った当初は、お互いがプランニングのプロセスで同席することはなく、それぞれ出来上がったものを見せて「これはうちの都合に合わない」と言い合っていたことを考えると、まさに隔世の感があり「社内・関係各所のインサイト」をつかむことで、劇的にマーケティングの精度が上がっているのを実感します。
このように「社内・関係各所のインサイト」をつかもうと動き始めることは、日本企業特有の縦割りの構造を打ち破って、全社(全社員)を統合したマーケティングを実践することにつながります。広告会社をはじめとするコミュニケーション業界では、IMC(統合型マーケティングコミュニケーション)の必要性が叫ばれていますが、その本質はマス広告/ウェブ/PR/店頭といった各情報発信のコミュニケーションメッセージだけを統合することではありません。上記の例で挙げたような社内組織、すなわち企業の根幹にあるビジネスオペレーションの統合にあるのだと心から思います。
近年「社内・関係各所のインサイト」をつかみ、縦割りの弊害を取り除くという観点から、組織を横断してマーケティング視点から各セクションの活動を規定し、統合化するCMO(Chief Marketing Officer:チーフマーケティングオフィサー)というポジションが注目されているのをご存知でしょうか。上記に伝えてきたようなことを制度として確立する意味で、非常に意味のある試みだと思います。ただ企業の縦割り構造が確立している日本で、急速にCMOが広がっていくとは思いにくいのも事実です。
では日本企業には、縦割りを打破するマーケティングはできないのでしょうか? 私はそんなことはないと思います。当社に声をかけてくださった現場のリーダーの方々が、縦割りの壁を飛び越え、「社内・関係各所」のインサイトを把握し、全社を巻き込んで成功していく姿を、私はいくつも見てきました。
まさにこのコラムを読んでくださっている方々には、現場のリーダークラスから部門長までの方々が数多くいらっしゃると思います。皆様の気持ちひとつで、いくらでも現状は変えられ、このコラムのタイトルである「全社員マーケティング時代」対応企業に変身することは可能だと私は確信しています。
以上で今回の連載は終了となります。「全社員マーケター時代の心得」という大それたテーマでコラムを書かせていただきましたが、少しはお役に立てましたでしょうか。どこかでお目にかかる機会がありましたら「生活者インサイト」、そして「社内・関係各所のインサイト」はどうやったらうまく把握できるのかについて、ぜひディスカッションをさせていただけたらと思います。ありがとうございました。
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