電子書籍ビジネスの真相

世界三大タブレットを「コンテンツ目線」で評価してみた--ハードウェア・電子書籍編 - (page 4)

林 智彦(朝日新聞社デジタル本部)2012年12月19日 11時01分

 日本でサービスを開始していないiBookstoreを評価することは厳密にはできないが、米国での展開ぶりを見ても、この中で、やはり老舗であるKindle Storeの使い勝手は圧倒的だ。

 Google Play BooksとKindle Storeを比べると、コンテンツ数、レビュー、検索の使い勝手でKindle Storeに軍配があがる。特にコンテンツ数の差は圧倒的だ。Google Play Booksはコンテンツ数を公表しておらず、検索結果でも分からないのでさまざまな検索をした結果の推定になるが、大量のコンテンツを投入しているのはPHP研究所などごく一部の出版社にとどまるようだ。

 ECにおいてユーザーレビューはコンテンツ選びのための非常に重要な要素だが、Google Playは書籍以外においてもスパムめいたレビューが多く、選択の参考にならない。

 さらに付言すると、動画などではあまり気にならないiPad miniの画質の低さが、実は電子書籍ではけっこう気になる。

iPad miniの表示 iPad miniの表示
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 写真はiPad miniのKindleアプリで表示した「文面」という文字。同じ文字をRetinaディスプレイを採用したiPad(第3世代)のそれと比べると、iPad miniの文字表示は、ややぼやけて、ギザギザに見えてしまう。

Retinaディスプレイを採用したiPad(第3世代)での表示 Retinaディスプレイを採用したiPad(第3世代)での表示
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 Retinaディスプレイを未体験のユーザーは気づかないかもしれないので、さほど重視すべき点ではないかもしれないが、頭の隅に置いておいてほしい。

 2のうち、「相互乗り入れ」まで含めて評価してみると、Kindle、Google Play BooksとiBooksとの使い勝手の差はさらに開いてしまう。

 iBooksは、ほかのプラットフォーム向けのアプリを用意していない。そのため、iOS端末以外のデバイスとの組み合わせでクラウド的な読書をすることはできない。

 クラウドならではの読書とは何か。AmazonのKindle利用者は、専用端末のKindle Paperwhiteで買った本を、Kindle Fire HDで読んだり、iPhone/AndroidのKindleアプリで読んだりできる。しかし、iBooksの利用者は、iPadで買った本をNexus7やAmazon Kindle Fire HDで読むことはできない。iBooksは「相互乗り入れ」していないためだ。

 Google Play Booksはどうか。Google Play BooksはiOS向けアプリを提供しており、Andord端末で買った本をiPhoneやiPadで読むことができる。

 3つのプラットフォームの中で「相互乗り入れ」に最も熱心なのがAmazon Kindleだ。「相互乗り入れ」は単に使い勝手だけの問題ではない。電子書籍が特定のハードウェア系列に「ロックイン」されていると、そのハードウェアの利用をやめてしまった場合、購入した書籍などが読めなくなってしまうという問題がある。

 例えばiBookstoreで本を購入してiPhone等で楽しんでいたとする。その後iPhoneの人に譲るなどして、Android端末に移った場合、買った書籍はもう読むことができないのだ。

 Google Play Book、Kindleの場合は、ブラウザで読むクラウドビューワーがあるので、各社のモバイル端末の利用をもしやめてしまったとしても、本を取り出して読むことができるが、iBooksにはこれもない。

 つまりiBooksはAppleのデバイスに完全に「ロックイン」されたサービスであり、デバイスの利用をやめる=読書をやめる、ことを意味する。この点が完全クラウド型電子書籍サービスであるGoogle Play BooksやKindleとiBooksとの大きな違いだ。

 もちろん、今後GoogleやAmazonが電子書籍サービスから撤退するなど、さまざまな事情で電子書籍が読めなくなってしまう可能性はある。それぞれ独自のDRM(著作権管理)を施しているためだ。コンテンツの永続的な利用を考えると、音楽産業と同じようにDRMが廃止されて、利用者がコンテンツを自由にダウンロード、バックアップできることが望ましいが、現状の選択肢としては、「相互乗り入れ」に積極的なサービスを選ぶ方がデバイスの「縛り」が少ない分、安心だといえる。

 なお、Kindleの場合、ほかのプラットフォームに出ていく形での「相互乗り入れ」には熱心だが、自社のプラットフォームに他社を招き入れるという意味の「相互乗り入れ」に積極的ではないのかもしれない。米国のAmazon App StoreにはKoboのアプリが登録されているが、日本の電子書籍関連では、eBookJapanのアプリだけが提供されている。ただし、前述のように現在はアクセスできない

 2のもう一つの例、3社以外の電子書籍プラットフォームを使う場合の評価をしよう。iPad miniとNexus7では、多数のサードパーティー電子書籍サービスのアプリが利用できる。国内の主要な電子書籍サービスでは、SonyのReaderアプリがAndroid向けのみとなるが、そのほかはこの2機種であればおおよそ対応していると考えていいだろう。

 なお、アプリのインストールの必要ない電子書籍サービス(ボイジャーの「BinB」やパピレスの「Renta」など)であれば、アプリをインストールできない環境でも当該サービスを利用できる可能性がある。

BinBの表紙 BinBの表紙
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 Kindle FireのSilkブラウザーで「BinB」を試してみたところ、きちんと読むことができた(写真)。

 総じて、品ぞろえ、使い勝手、クラウド的機能など、すべての面でAmazonのKindleエコシステム、それをフルにビルトインしているKindle Fire HDが、電子書籍に関しては一歩抜きん出ている印象を受けた。ついでフレキシブルにさまざまなサービスに対応できるNexus7が、推薦できるタブレットになろう。

 もちろん、スマホ、タブレット、PCなどを将来にわたってすべてAppleにそろえるつもりであれば、なんと言ってもiPad miniの高品質なデザイン、カバンに入れても苦にならない軽さも極めて魅力的だ。

 反対にこの2機種に比べて大きく重いKindle Fire HDは、毎日持ち歩く、というよりはベッドやリビングに置いて書籍や映画を楽しむ、という利用に向いているといえる。

 ここまで、主にハードウェアとアプリ、電子書籍サービスの二点で3大タブレットの魅力を探ってみた。

 次回は、音楽、映画のコンテンツについても深掘りし、結局、「どれがいいのか」について決着をつけてみたい。

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