IBMの復活--DAY2 サービス:IBMの大いなる賭け - (page 2)

Ed Frauenheim(CNET News.com)2004年07月27日 10時00分

より多くの人に、より多くのものを

 IBMのもう1つの戦略は、アプリケーション開発、災害時の復旧支援、顧客コンピュータの運用など、他社にはとても真似できないような幅広い技術サービスを提供することだ。

 IBMは同社の技術と、2000年にPwCのコンサルティング部門を買収して得たビジネス能力を組み合わせて、新たな顧客を獲得したいと考えている。同社は先日、Business Consulting Servicesと呼ばれる巨大な部門を新設し、約3万人のPwCコンサルタントと3万人のIBM従業員を配置した。同部門の売上はサービス部門全体の約30%を占める。

 市場調査会社Gartnerのアナリスト、Linda Cohenは、IBMが急成長中のBPO市場に参入するためには、PwCコンサルタントの獲得が不可欠だったと指摘する。昨年の企業のBPO支出は世界全体で約8%増え、約4050億ドルになった。調査会社IDCによれば、この数字は2008年には6825億ドルに達するという。

アウトソースは禁句?
IBMがオンデマンド構想を発表して以来、この言葉は混乱を招いてきた。他社がユーティリティ、グリッド、パーベイシブコンピューティングといった専門用語を使って自社版「オンデマンド」戦略を発表したことも、問題をさらに複雑にした。

リストラされた米国人の神経を逆なでする言葉――アウトソース。ここ数週間というもの、IBMはこの言葉に過敏になっているようだ。IBMは先日、エネルギー企業2社、ドイツ系銀行2社との契約を発表したが、「アウトソース」という言葉は使われなかった。しかし、どの契約にも何らかの業務請負契約が含まれている。

IBM はMarathon Oil(会計業務を代行)と天然ガス生産企業Williams(人事業務等を代行)との契約を「ビジネスプロセス・トランスフォーメーション・サービス」契約と表現した。それ以前は、「ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)」という業界用語にひねりを加え、単に業務を請け負うのではなく、請け負った業務を改善する「ビジネス・トランスフォーメーション・アウトソーシング(BTO)」という言葉を使っていた。

批判を避けるための言い換えだという指摘をIBMは否定する。IBMの主張によれば、アウトソースはビジネスプロセス・トランスフォーメーション・サービスの一つにすぎず、ほかにも多くの分野が含まれるという。技術と業界知識を駆使して、企業の人事や会計業務を支援することもその一つだ。「単なる言い換えではない。われわれはビジネスプロセス・トランスフォーメーションという新しい市場が現れつつあると考えているのだ」とIBMの広報担当者Ian Colleyはいう。

 IBMは、「ビジネスプロセス・トランスフォーメーション・サービス」で、BPO市場のライバルに差をつけようとしている。単に顧客のビジネスプロセスを代行するのではなく、それを改善するのがIBMの売りだ。IDCはIBMとAccentureをBPO市場でもっとも先進的なITサービス企業と位置づけている。IBMによれば、同社は現在、約150億ドル相当のビジネス・トランフォーメーション・アウトソーシング案件を抱えているという。

 「市場支配に向けて、IBMは的確に駒を進めている」とIDCのアナリスト、Katrina Menzigianはいう。

 昨年、IBMの大口顧客である家庭用品最大手のProcter & Gamble は、IBMに給与や福利厚生といった従業員向けサービスを委託する4億ドル規模の10年契約を結んだ。P&G広報担当のDamon Jonesは、IBMがConvergysやAccentureといった競合企業と比べて、きわめて協調的だったと振り返る。

 「IBMは当社のノウハウに敬意を払ってくれた」とJonesはいう。P&Gが求めていたのはサービスの改善、コストの削減、そしてイノベーションだった。「なかにはやってくるなり、『この分野のプロはわれわれだ。君たちは手を引いて、われわれに任せたまえ』という輩もいた」(Jones)

 IBMとの契約は今年1月にスタートし、P&Gは世界各国の約800人の社員をIBMに移籍させた。これまでのところ、両社はP&Gに新しいプロセスを導入することよりも、IBMに既存の業務を引き継ぐことに重点を置いている。Jonesによれば、この業務の移管はスムーズに進んだという。

すばらしき新世界

 サービス事業の拡大に伴って、IBMは新しい領域に進出していった。「今後は新たな市場に参入することなく成長を続けるのが難しくなる」と、Pacific Crest Securitiesのアナリスト、Richard Petersenは述べている。

 たとえば、北米Philipsのアフターサービス業務を請け負う契約では、IBMはテレビの修理を手がけることになる。契約の対象となるテレビやその他の家電製品にはデジタル技術が使われており、畑違いのビジネスではないとIBMは主張する。

 また、IBM Global Servicesの南北アメリカ担当ゼネラルマネジャーBob Zapfelは、高性能テレビの顧客はコンピュータ並みの高度な顧客サービスを求めるようになると指摘する。「これらの製品にはITシステムと同等のサポート体制が必要だ」(Zapfel)

 一方、BPO契約のなかでも、社員の経費精算といった業務は膨大な手間と事務作業を要する。この種の低熟練労働は途上国に移行されつつあるが、IBMも例外ではない。P&Gとの契約では、IBMはコスタリカにあるP&Gのサービスセンターで給与計算業務を処理している。

 インドの業務受託・コールセンター業者Daksh(従業員6000人)の買収も進行中だ。IBMはすでにインドで9000人を雇用しているが、年内にはさらに増員する計画だという。また、今年2月に石油大手Shellと結んだ契約では、インドからITサービスを提供することになっている。

 しかし、サービス部門の戦略はグローバル化の逆を行っているようだ。サービス部門が標的とするのは従業員100人から1000人の中小企業である。こうした企業は米国だけで10万社を超える。昨年、IBMは中小企業向けのハードウェア、ソフトウェア、サービス、財務計画をパッケージ化した「Express」イニシアチブをスタートさせた。

 調査会社In-Stat/MDRのアナリスト、Kneko Burneyは、小規模システムインテグレータとの連携がIBMの中小企業戦略の要所になると指摘する。しかし、そのためにはまず、IBMは「下請けいじめ」の汚名を返上しなければならない。

 「IBMは長年、横暴なパートナーだと見なされてきた。しかし、現在は大いに更正したようだ」(Burney)

 IBM Global Servicesの新しいトップは、こうしたいかがわしい評判をはじめとするさまざまな遺産を引き継いだ。IBMは今年5月にサービス部門の幹部を交代させたが、これはサービス部門の収益性に対する不安が原因だったのかもしれない。

 セールス部門のトップがSiebel SystemsのCEOに就任するために辞任すると、IBMは後任にサービス部門の長だったDoug Elixを据えた。一方、サービス部門の長には元最高財務責任者(CFO)のJohn Joyceが選ばれた。

 「この2四半期、サービス部門の利幅は平均を下回っていた」とSchwabのJonesはいう。「それがJoyceにとってはチャンスだった。彼は手を挙げてこういったのだ。『変化が必要だ。私に挑戦させてくれ』」

 しかし、Joyceは数字に強いだけの男ではない。4年以上前にCFOに就任する前、同氏はIBMのアジア太平洋部門を統括する立場にあった。財務の範疇をはるかに超えた難問に取り組むためには、Joyceの幅広い経験が大いに役立つだろう。

 サービス部門の1つの課題は、IBMやその他の企業が提唱する高度な自動化に対応することだ。いずれコンピュータシステムの信頼性は高まり、相互運用性は強化され、技術者の需要は減ると調査会社IlluminataのアナリストGordon Haffは予測する。

 ZapfelはIBM Global Servicesの拡大路線が難しい問題に突き当たっていることを認める。しかし、18万人のコンサルタントと、世界最大の技術サービス企業であることにはそれなりの利点があるとZapfelはいう。

 「市場競争の観点からいえば、われわれはよい位置につけていると思う」(Zapfel)

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