11月上旬に中国シンセンで開催された「The 25th World Electric Vehicle Symposium and Exposition」(EVS25)の会場は広く、会場全体は中庭の通路を挟んで2つの大会場に分けられていた。大きい方の会場はEV(電気自動車などの電動輸送機器)メーカーの展示が多く、もう一方の会場はパーツや部品メーカーの看板が目立っていた。
今回多くの関係者の関心を惹きつけたのは、やはり中国におけるEV用のLi-ionバッテリメーカーの動向であろう。日本をはじめ欧米の老舗自動車メーカーが生き残りをかけ自社のEVを誇らしげに展示する中、最も目立っていたのが中国勢EVメーカーの数の多さである。
その中にはBYDやGCグループなど今では誰もが知る中国EVメーカーのほかに、見たことも聞いたこともない企業が20社近くあった。気のせいかそれらデザインやコンセプトになんとなく馴染みのあるものも多かった。ここでは乗用車は勿論のこと、大型の電気バス、電動バイクメーカーも数多く展示されており、中国のEV熱はまさしくクライマックスにきていると感じる勢いだ。
会場に降りるとEVメーカー各社が展示会場の中心を陣取っており、その周りを囲むようにLi-ionメーカーが数多くひしめき合っているという印象だ。
「中国にEV用Li-ionバッテリメーカーは120社以上ある、玉石混淆だよ。今はLi-ion電池への投資熱が凄まじく、今後もバッテリメーカーは増える。そうなると市場が品質を求めるから低品質のメーカーは市場から淘汰されるのも時間の問題。でも業界関係者は視点を次に移している。次はそのバッテリを管理するシステム(BMS:バッテリマネジメントシステム)やノウハウがモノを言うんだ」と流暢な英語で説明するDarrenは、米国製の高度BMSを売りとするブースに立っていた。
中国勢のバッテリメーカーは、バッテリパックそのものをアピールしている企業が多く、同じようにバッテリを展示している欧米メーカーは提供するサービスをバッテリソリューションというメッセージで伝えようとしていた。例えば、中国勢の勢いに負けまいとするシーメンスやフォルクスワーゲンなどドイツメーカーの意地を見ることができた。
新型EV“Blue e-motion”も多くの注目を集め、シーメンスはEVのみならずエネルギーの「トータルソリューション」を強烈にアピールしていた。だが、やはり人々の注目はEVとバッテリに集まっている。
Maggieは「シンセンではすでに100台以上のEVタクシーが走っている、また中国全土に設置した25のEVスタンドのうち4つはシンセン市内にある」と、香港を本拠地とする電力供給会社のブース内で、中国全土の地図を前に4つの赤いポイントがついたシンセンエリアを指して説明する。
このEVタクシーも、元はLi-ionバッテリメーカーだったBYDがシンセンタクシーに車両を提供している。もはやEVはバッテリメーカーでも作れるものになったのか。EVは駆動系(モーター)、バッテリとシステムで動く。逆を言えば、それがあればEVを作れてしまうといっても過言ではない。
EVの家電化などと揶揄されるように、EVは従来のエンジンメーカーが必ずしも勝てる土壌ではないことを最近になって多くの人が理解し始めている。トヨタとパナソニックが提携したテスラモーターはシリコンバレーから突如出現したし、ノルウェーにはシンクというブランドでPCメーカーのデルのビジネスモデルをEVで展開している企業もあるくらいだ。シンクは組み立て工場を一切持たず、提携先の工場へパーツを納入して組み立てを行っている。
今後のEV市場の展望はどうなっているのか。今回会場近くで日系メーカーと海外メーカーのミーティング場面に遭遇した。その中で話されていたのは、今後のEV主戦場は中国であり、中国の各EVメーカーはそこで主導権を握るために市場シェアの確保を急いでいるということだ。
シェア拡大のためには量産技術が必要になり、ここで中国メーカーが部品メーカーに求めているものは、もはやコンポーネントごとの選定ではなく、オールインワンパッケージとして提案できるトータルソリューション力である。バッテリ、駆動系(モーター)とそれらを管理するシステムのパッケージが必要なのだ。
会場のブースを注意深く周るとその通り、前述した3つのコンポーネントを組み合わせ、EVメーカーへのトータルソリューションを提供するコンサルティング会社をチラホラ見つけることができる。「今後中国のEV業界で最も多くの資本が投入される分野が、EVメーカーのためのワンストップソリューションとコンサルティングだよ。我々はすでに色んな企業と組んで動いている」と、自信に満ちた表情で答えるのはNBTで事業開発を担当するEdwardだ。
確かに今回のEVS25では、EVやバッテリメーカーは自社製品や技術の発表という側面が強く、それを何に使うのかという提案が少なかった。中国経済の力強い成長とともにEV分野も同様に成長しているようだが、まだ市場をデザインするプレイヤーが少ないのではないか。
関係者が話すように、今後中国市場がEVの主戦場となるのであれば、EVメーカーが求める「トータルソリューション」を提供するため、今後は企業同士のアライアンスが進むと考えられる。急成長する中国市場ではアライアンスにおいてもスピード感が重要だ。技術流出を必要以上に懸念する日本企業がここで勝機をつかむことはできるのだろうか。
次回のEVS26は2012年に米国LAで開催される。次回は技術力の誇示ではなく、それぞれの技術力をどう売るか、よりマーケティング要素が強くなってくるだろう。その時、日本勢がEVの世界勢力図のどこに立っているのか楽しみである。
下田 敬
クリーングリーンリサーチジャパン
早稲田大学理工学部を卒業後、General Electricなどに勤務。早稲田大学ビジネススクール。
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