3.e-Japanのこれからの課題:自民党は何を重要だと考えているか
--e-Japan戦略は来年、とりあえずの「完成年度」を迎えます。これまでお話し頂いた電子政府関連の引き続いての改革推進はもちろんですが、e-Japanの今後という意味でも、どのような政策課題が今後浮上してくるかは大きな注目点だと思います。この辺りについて、どの辺に注力していきたいとお考えでしょうか?
平井: まず、先ほどちょっと触れましたが、ITは特にブロードバンドの進展に伴って、我々の生活する社会をかなり大規模に変革しているという認識に立つことが重要だと思います。これは産業革命の蒸気機関と同じようなインパクトを持っていると思います。言葉を換えれば、これはITの影響が社会の様々なところに表れるようになってきたと言うことです。すなわち政策ニーズという点から言えば、より具体的、かつ細かいものになってくるわけですね。単純に情報通信、コンピュータという世界の話ではなく、より社会学的な分析をしっかりと行い、何が社会で起きているのかをきちんと把握することが重要だと思いますね。
例えばデジ・アナの融合の時代になってくるとコンテンツの扱いなどについて政策課題が浮上してくるでしょうね。現にiPodもそうだし、HDDレコーダもそうだし、消費者のライフスタイルが変わってきてるんですよね。でも周りの制度が追い付いていない。このようなパターンは教育現場にもあって、コンピュータを教育の現場に入れようという際に、まずは教員のリテラシを高めて…なんて事をしているんです。遅すぎるというか、やってることがもう周回遅れなんですよね。
細かいニーズという事から言えば、今喫緊の課題になっているのが、防災対策とITの関係ですね。
今年は台風が何度も日本に上陸して被害が多数出ました。中でも市街地が冠水する事態が多数発生したんですけど、事務所が冠水してパソコンの中の会計データなどが使い物にならなくなってしまった、というような報告が多数あります。中小企業はデータセンターとかも使ってなくて、事務所のパソコンに会計ソフトを入れてすべてを賄っている、というパターンがほとんどなのです。そういう企業では、バックアップを常時取っているところも少なく、外部メディアでたまに取ってるとか、そういう程度です。それで、今回の水害でパソコンが水没して、データが数年分飛んでしまったというケースが続出している。ITって意外に脆弱なんですよ。
さらに、今度出来るe文書法(第二回連載参照)への対応ということからも、松竹梅の下というか、安価にデータセンターを利用できるような仕組みを中小企業対策という点からも推進していかなければならないと考えています。
セキュリティの問題にしても、もちろんサイバーテロ対策という点も重要だが、むしろ9.11以後は国家安全保障とIT技術というより広い問題に変化しつつある点に注目すべきでしょう。例えば、私が米国に外交旅券で行っても今は顔写真と指紋を採られるわけです。つまり、米国は巨大な顔写真と指紋のデータベースを作ろうとしているんですね。良くも悪くも。そのスタンダードをいずれ、各国に要求してくるだろう。そういう場合にプライバシーの問題を含めてどのように対応していくか。これは大変困難な課題になってくると思います。
同様に国際的なテロ対策という観点から難しいのが港湾のITによるワンストップ化ですね。港湾の効率化はなかなか進まないのが現状です。自民党でもFAL条約などへの対応を急げという問題提起をしていますが、これも困難な課題です。
R&Dについては、政府の研究開発予算は5年で24億円も投じられている。この中でIT関連にはどれだけ投じられているのか。どれだけ成果が上がっているのかも検証する必要がありますね。また、オープンソース政策についても、日・中・韓の国際協調という点や、情報家電の基盤という観点から推進していく必要があると思います。具体的には、例えばソフトウェア開発における分析設計用の表記法であるUML、DFD等は大きなポイントでしょう。日本は細かいところまで作り込んでいきますから、壊れたときに気づかなかったりする場合が多い。その点でもメタデータである程度論理的に作っていけるような仕組みは重要だと思います。
電子自治体については、私は、無理にみんな横並びで電子自治体化する必要はないと考えています。フロントランナーを走る自治体はどんどん先進的に走って頂くとして、後ろの方の自治体は、無理をしてまで導入をしなくても良いと思いますね。IT投資はやはり高額だし、利用が進むにも、自治体の規模が20〜30万人ないと厳しいでしょう。最低限必要な電子申請などは、国がイニシアチブを取って、自治体間での共通基盤を整備するような考え方でで進めていけば良いのではないでしょうか。
また、電子政府に関しての自民党e-Japan特命委員会の次の課題としては、政府のIT投資のさらなる効率化は引き続き追求していきたい。例えば、独立行政法人に数多くの中央省庁や特殊法人の業務が移管されているが、このあたりのIT投資がどのような状況になっているのか、まったく分かっていない。この辺りは調べてみる必要があると思っています。
電子政府は単に情報システムの導入による利便性の向上だけではなく、行政改革の一環という文脈を忘れてはなりません。ただし、法律を作るというフェーズよりはむしろ、情報システムの最適化、部分的な規制緩和、促進政策という細かい作業になってくるでしょう。行政改革推進という点からは、役所の成果について政治の側が具体的にコミットするような仕組みが必要でしょう。例えば、米国の「ハンマーアウォード」(※注7)のような、がんばった行政機関を褒める、あるいは行政機関同士を競争させる仕組みを作るのはとても良いと思っています。
e-Japanの次のステップを考える時に重要なのは「順位」でもなければ「最先端」でもないのです。既に、追いつけ追い越せというフェーズは終わりました。それ故に具体的な課題が見つかりにくいのですが、結構目立たないところに重要な問題は転がっているものです。政治家はいろいろな人と頻繁に会って、省庁よりも生活者・消費者に近いところのニーズを拾っているから、問題を見つけだすという点ではむしろ有利な点があります。そのような生活者の視点を大事にしながら、引き続き、政府のIT政策についての提言を続けていきたいと考えています。
※注1:平成16年度のe-Japan関連予算の一覧(総務省資料)、2003年度予算の具体的施策別支出額一覧(IT戦略本部資料)
※注2:10億円以上の経費を要する大規模情報システムは合計で86システム、2002年度予算ベースで年間約8,700億円(郵政公社分を含む)。その中でレガシーシステムは41システムと半数だが、経費は80%の約7000億円に達する。
※注4:社会保険オンラインシステムは1066億円、国税総合管理システムは658億円、登記情報システムは605億円が使われている(2003年度予算ベース)
※注5:データ通信役務サービス契約とは、事業実施官庁が情報システムを委託開発(委託開発期間終了後はシステムに関する権利が事業実施官庁に帰属する)のではなく、役務提供者(例えば社会保険オンラインシステムの場合はNTTデータ)が開発し、システムを保有し、事業実施官庁から使用料を徴収する仕組みの契約を指す。ほとんどの場合、開発費は使用料に上乗せされて請求される。システムに関する権利が開発者側に完全に帰属している、契約が競争環境にない(省庁側の都合で契約解除する場合はこれまでに要した経費(残債)を全額省庁側が支払う必要がある。ちなみに昨年度末で社会保険オンラインシステムを契約解除した場合の残債は1943億円にのぼる。)等の問題点が指摘されており、2002年度には会計検査院の会計検査報告の特定検査対象にもなった。
ちなみに、このデータ通信役務契約を解消する目的で、経済産業省では特許事務システムについて、04年度予算の特許システム経費を前年度比2倍(529億円)計上し、277億円を残債の一括返済に充てることにした上で、システムソフトウェアの著作権を回収し(特許庁の場合は社会保険庁と異なり、残債を支払終えればソフトウェアの著作権が特許庁に移管される特約が付いていた。翻って言えば、社会保険庁の現行契約ではシステムの著作権を所有できる見込みがない。)、システムの管理・運用を2005年度からオープンシステムを前提とした一般競争入札とするなどの「業務・システム最適化計画」を打ち出している。
特許庁業務・システム最適化計画概要・本文
刷新可能性調査結果
※注6:e-Japan特命チームの一連の申し入れ書は以下にある:
※注7:クリントン政権下での抜本的な行政改革の際に、抜きんでた業績を示した(現状打破の取り組みに成功した)行政機関に授与された賞。ゴア副大統領(当時)が制定した。 http://govinfo.library.unt.edu/npr/library/awards/hammer/
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